Ethno nationalism〜激突〜-12
「…あの、日本の方…ですか?」
ひとりが遠慮がちに話掛ける。その手には、カメラが握られていた。
「…そうですが」
藤田はそう言うと微笑んだ。すると、彼女達は安堵の表情を浮かべながら、
「よかった〜!違ってたらどうしようかと思って……すいません、写真をお願いしたいんですけど?」
2人の願いを藤田は快く引き受けた。彼女達はカメラを手渡しながら、屈託の無い笑顔で語り掛ける。
「私達、専門学校生なんです。就職も決まったんで、ひと足早く卒業旅行って事で、憧れのイギリスに来たんです!」
そのキラキラとした表情に、藤田も笑みを浮かべ、〈そいつはおめでとう〉と言ってカメラを受け取る。
サーペンタインレイクを背にして並ぶ2人。やや離れてカメラを構える。
「いきますよ!笑って」
シャッターを押そうとした時、指先に痛みが走る。
(……!)
次の瞬間、目の前が真っ暗になり、全身の力が抜けていく。
藤田は、糸が切れた操り人形のように芝生に倒れ込んだ。
女性2人は、わけが分からないといった表情でしばらく立ち尽くした後、慌てて藤田に駆け寄ると、
「…だ、大丈夫ですか?もしもし?…ちょっと!大丈夫ですか!」
それを見ていた3人のジョギング姿の男達が駆け寄って来た。
「どうしたんだ?この男は病気か?」
男のひとりが彼女達に問いかけるが、英語があまり分からない2人は身振り手振りで説明する。
「とにかく病院に運ぼう」
男達は、ひとりの背中に藤田を乗せて横から2人が支えると、ゆっくりとした足どりで駐車場へと向かう。
「君達も来てくれ!状況を説明する必要があるから」
男はそう言って〈来い〉とジェスチャーをすると、女性の手首を掴んで連れて行こうとする。彼女達は仕方なく彼等に着いて行った。
藤田と女性達を乗せたクルマはハイドパークを後にした。
ーオールドブロードstー
〈ティベリアス・カンパニー〉の事務所奥の部屋で、マッケイとマリアは連絡を待っていた。
マッケイは、イスに腰掛け腕組みをして俯き目を閉じて。
対してマリアは窓辺に立って外を眺めている。
そこへ、サタニアフの秘書が紅茶を持って入って来た。
「お茶にしましょう」
マッケイは顔を上げて腕をほどいた。
「紅茶にスコーンか。頂くよ」
そう言って姿勢を正すと、カップを口に運ぶ。柔らかな渋味と、スッキリとした香りが広がる。