辛殻破片『甘辛より愛を込めて』-7
呆然としていると、雪さんが鼻高高にふふんと笑う。
「あの、すみません。 もしその三つ全てが事実だとすると、僕はどういうリアクションをすれば良いんですか?」
「本能、そして欲望の赴くがままに反応…ちょっと違うか。 とりあえず、嘘じゃないもんね」
そこは嘘でも嘘だときっぱり言い切ってほしかった。
大分傾向が違う方向に曲がってしまったな。 まあこの話は置いといて…。
「……それで、続きは?」
「なーんだ、反応薄いね」
と言いつつも、にやにやとした笑みを崩さないのはなぜだろう。
「優先順位というものがありまして」
「…『死んだ魚のような目』から『劣化した太陽のような目』に微少なりともランクアップしたし…オーケーかな」
「………え…」
さっきの出来事があまりにもショックで、胸の辺りが暗かったんだ…。
雪柳 由紀奈。
" 子供なのか大人なのか、非常に判断し辛い女性 "。 今までの印象はこうだった。
訂正しよう、" 子供らしい立派な大人の女性 "だ。
「ゆ、由紀奈さん……」
「肩の力を抜こう? そんなに神経張りつめてるとこっちも気が滅入っちゃうよ」
「…………はい」
「それじゃあ続きね」
聖奈さんが膝をつきながら事をしている最中に、後ろで覗いていた雪さんは驚く一方で考えた。
だが結論に辿り着くまで一秒もかからず、思考が体を行動させた。
気付かれないように音を立てず、雪さんは聖奈さんに近付き──。
ちなみにここで僕は予想した。 大声を出したりして驚かしたのかな…と。
案の定その通り。
激しくビクンと体を跳ねさせ、雪さんの方を向き一言。
「げぇっ! 由紀奈ちゃん!」と。
聖奈さんはこのように驚いていたという。
「こんな感じだね!」
「…それで終わり…いや、凪が関係なくなってる上にその一言が何よりもおかしいです…」
「つ、ツッコミ早いなぁ」
「……」
誉められて(?)か、なぜか苦笑してしまった。
本当は「ゆっ、由紀奈ちゃん……」と、泣き出してしまったらしい。
「あれ? 本当に終わりですか?」
尋ねる僕に対し、雪さんは俯き気味にこう言った。
「ううん…ここからが…………だけど」
「ここからが」の辺りから急に雪さんの声が小さくなった。
そこまで疑問も感じなかったが、聞き直そう。
「すみません、聞こえなかったのでもう一度お願いします」
「あ、うん……ここから」
どこかのホラー映画じゃないけど、端から見ればそんな感じかもしれない。
正確に聴こえた、間違いなんかじゃない。