辛殻破片『甘辛より愛を込めて』-6
「…って言ってたけど、もしあたしが君に…」
雪さんが笑う、にやにやと。 とりたてて不愉快ではないが、愉快な気分にもなれない。
「冗談でも冗談になりませんよ」
「そう…うん、そうだね」
僕はもう悪のりに付き合ってられないほど精神が参っていた。
冗談を冗談と受け取ることが出来たのが唯一の救いだ。
『話』を聞くために僕は雪さんに手を引かれ、雪さんの部屋へと再度戻ってきた。
凪がいる前ではとても話せない話か…と、解釈してよかったのだろうか。
「それで、お話とは?」
「…特に大事な話ってワケじゃないけど……一応凪ちゃんに関しての話かな」
──ズキリ
「つっ…」
頭痛が起こり視界がぶれる。 テレビの電波が悪くなった時のように。
「さ、佐々見くん」
雪さんがよろめく僕を支えてくれたが、反して弱く押し返す。
「いや…あの、大丈夫です。 それより早く…」
痛みを我慢して促すと雪さんはメガネを取り、無言でゆっくり首肯する。
「…聖奈も驚いてたんだ」
「あの凪に、ですか?」
「多分ね」
髪を弄りながら、雪さんは語る──。
早朝の時刻。 リビングに敷かれていた布団に、横になっていた雪さんだけが起きる中、丁度よく聖奈さんがやって来た。
しかし聖奈さんは雪さんが起きたことに気付いておらず、そのままリビングを通り過ぎて他の部屋に向かった。
その数秒後、雪さんは最早線とも言える両目を眠たそうに擦りながら、興味本位で聖奈さんをスネーク(追跡の意)した。
すると辿り着いた場所は、僕が寝ていた部屋、即ち雪さんの部屋だった。
ちなみにたった今聞いたばかりの話によると、僕の隣で凪も眠っていたらしい。 初耳である。
聖奈さんが取った行動は、まずドアを軽くノックしつつ「私です、聖奈です。 起きてますか?」と一声。 されど応答が無かったので入ることに。
慌てて雪さんも忍び足で近寄り、開きっぱなしのドアの間からこっそり中を覗くと、そこには…!
「…そこには?」
「……そこにはね…」
ああ、前兆だ。
丸めた手を口元に当てて小声でくふふと笑う時の雪さんは、ほぼ九割の確率で『何か』を考えている時の雪さんである。
前科がたくさんある上に、これは一種のわかりやすい癖なのだから。
「と、ここで三択問題です。 この時、聖奈はこうしたんだろうなと思った行動を、次の三つの内からお選びください。 一つだけ事実が隠れています」
うん、そうくるんだろうなとは思っていた。
空気を読むとか読まないとか以前に、一刻も早く話を終わらせたかった僕は乗ることにした。
「最初に…A! 聖奈は佐々見くんに…やっぱりめんどくさいからまとめて言うね。 …ABC! 聖奈は佐々見くんにちゅーをした! さぁさぁどれでしょうか?」
「はぁ……」
呆気を表す空気を吐き、
「はぁ!?」
驚愕を表す空気を吐いた。