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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『甘辛より愛を込めて』-2

「…それね、ずっと昔にお母さんから…というよりも、透から貰ったぬいぐるみ。 それが最後の一つ、もうどこにも無いと思うよ」
「……そうなんですか」
 嬉しそうにぬいぐるみのことを話す雪さんの顔は、悲しそうにも見えた。

 まあ、うん。 シリアスっぽいムードを壊すようで何だけれども。 …どうしても気になってしまう。
「…雪さんの部屋ってことは、その…ここ、ベッド…」
「あー、照れてるんだ」
「照れてないです!」
「透の部屋が良かった? でもゴメンね、勝手に借りることはできないから」
「…そういう問題でもないです」

 そうだ、こんなくだらない話をしてる場合じゃなかった。 大本の話も聞かなきゃ。

 養父に首を絞められて意識がなくなり、死んだと思ったら雪さんの部屋で寝ていた。
 考えても考えても理解できるはずがない。 だから聞くのだ。

「本題ですが、僕はなんでここにいるんですか?」
「……うん…えっとね……」
 雪さんが何秒間か口籠もる。 どうしたんだ?

「まずは順を追って説明するね」


 バイトが終わり自宅の前に着いた時、そこに僕を背負った透がいて、更にぐったりとした状態で倒れている一人の少女がいた。 ちなみに後で聞いたところによると、その少女は秀麻 凪だったという。
 とりあえず僕と凪をリビングに寝かせることにして、雪さんは透と聖奈さんに事情を聞いた。

 二人は俯き、暫くの間、何も言わなかった。
 そこで急に、透が沈黙を破った。

「そのことは明日話す、もう遅いしな。 何はともあれ、二人の安全が最優先だ。 特にそっちの凪の方は俺でも、というか俺じゃわからん」

 そして現在に至る──らしい。


「あたしだけ除け者みたいだよね…まったく、帰ってきたら絶対に聞かなきゃ」
 そうか。 雪さんは何も知らない…いや待てよ。

 " 僕も知らない "じゃないか。

 どういうことだ? 意味がわからない、疑問点が多すぎる。

「それっていつの話ですか?」
「昨晩だよ。 九時近くだったかな」
 養父に会ったのは夜の出来事だった。 確認をとっても同じか。

 僕を背負った透と、倒れていた凪。

 透の行動も気になったが、一番気になるのは…やはり凪だ。
 昨夜、僕の意識が途切れていた夜、いったい何が…?

 あれ? " 昨夜 "?

「…今…AMかPM、どちらの何時ですか?」
「今? もう午前の…九時を回ったところだよ。 もう少ししたらあたしは大学に行かなくちゃいけないけど」


 冷や汗が滴り落ちる。

 学校ハドウスル?


「あ、学校? 安心して、透が学校の先生に二人とも休みだって伝えてくれるらしいから」
「…そ、それなら…良かった」
 本当に良かった。 デッドオアアライブのトラブルが起きた上に、担任の先生に怒られたら元も子もない。


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