恋の奴隷【番外編】〜愛しの君へ〜-3
「神様に届くかも知れねーじゃん!神様なら柚のお母さんの病気すぐ治しちゃうよ」
神だの天だのを本当に信じていた俺は、まだまだガキだったと思う。だけど純粋に心から空に向けて願った。柚姫にはいつも笑っていて欲しいから。
「柚のママが早く元気になりますよーに!」
すると、柚姫も真剣な顔で力いっぱい声を出して。
俺達は声が枯れるまで叫んだ。きっとこの願いが届くと信じて。
しかし、俺達の願いも虚しく、悲しい現実がすぐそこまで迫っていたなんて思いもしていなかった。
そしてある日突然、いつもあるはずの笑顔が俺の前から消えた。
一日中待ってみたけれど、柚姫の姿を見つけることは出来なかった。
“また明日”って笑顔で手を振って別れたのに。
柚姫が約束を破るはずないんだ。
きっと何かあったに違いない。
俺は次の日もその次の日も公園へと向かった。帰る方向が逆であったため、どこに家があるのかも知らない。俺達を繋ぐ場所は公園しかなかった。焦りと不安は次第に膨らんでいった。それでも柚姫は来ると信じて待った。
公園の入口で、いつも柚姫が帰っていく方向を見つめていると、一人の少女が年配の女性に連れられてこちらへゆっくりと歩いてくる姿が見えた。
「柚…?」
その少女は間違いなく柚姫だった。けれど以前のような柔らかい優しい笑顔は消え、瞳は光を完全に失い、まるで人形のようだった。
「おばあちゃん、この子だあれ?」
─コノコダアレ?
思いもしない柚姫の言葉が俺の胸を締め付ける。
「…優磨君?」
隣に居た女性は頼りない笑みを浮かべて、俺に話し掛けた。
「はじめまして。私は柚ちゃんのおばあちゃんよ。…悲しいことがあってね、そのせいで柚ちゃんの頭の中は少し前の時間から止まっちゃってるの。だから優磨君を忘れたわけじゃないのよ?柚ちゃんが少し前に戻っちゃっただけなの」
「…時間が止まった?戻る?柚に何があったんですか!」
柚姫の祖母は暫く黙ったまま、悲しげに瞳を揺らし口を開いた。
「柚ちゃんね、お友達が出来たって優磨君のこと嬉しそうに話してて。柚ちゃんが突然公園に来れなくなっちゃって、もしかしたら優磨君が心配してるかも知れないと思ってね。柚ちゃんとお友達になってくれてありがとう」
柚姫の祖母は俺の問い掛けには答えず、穏やかな口調でそう告げた。柚姫は終始、うつろな目をしてこちらを見ていた。だけど柚姫の目は俺を捉えてはいない。俺は唇をきつく噛んで込み上げてくる寂しさや、悔しさを必死に押さえた。
「柚…お前が覚えてなくても、絶対俺は忘れないよ。いつか絶対また会えるから!」
─きっと、いつか会えるから。