やっぱすっきゃねん!U…@-1
「ヨシ、こーいっ!」
夏のグランド。陽炎立つフィールドで、打球を待つ外野手の声が一際高く響く。
〈キンッ!〉
ノッカーの放つ金属音を残して、白球は空にすい込まれた。
「ハイッ!!」
打った瞬間、彼女は声と共に地面を蹴って後方へとダッシュする。
白球はゆるやかに空を舞った後、速度を増して落ちてくる。
彼女は、経験から落下位置を推測すると、スピードを緩める余裕を持ってグローブで掴んだ。
その動きを見つめていた周りから、感嘆の声が挙がる。
彼女はスパイクのツメで地面を掴むとブレーキを掛け、身体をクルリと旋回させ、勢いのままセカンドへと投げた。
澤田佳代。中学2年生。青葉中学野球部員。
子供の頃から野球が大好きで、男の子に混じってボールを追いかけた毎日。
その思いのまま中学で野球部に入った。
そして、夏の中体連大会の出来事で1度は諦めた野球。
そんな野球に再び戻って来れた。
(また野球が出来る)
彼女が流した喜びの涙から、3週間が経とうとしていた。
佳代は1年生部員に混じってノックを受ける。
野球部に戻る条件として、新入部員からやり直すという監督榊と交した約束だった。
「もういっちょう!」
再び佳代に打球が飛ぶ。今度は低い軌道だ。
佳代は素早く前に駆けて行き、ヒザから滑り込むと胸元でボールをキャッチする。
そして、跳ねるように身体を起こすとセカンドへ返球した。
「ヨシ!次っ」
ノッカーの山崎が声を掛ける。佳代は帽子をとって〈ありがとうございました!〉と、頭を下げると、並んでいる外野手達のカバーに回る。
流れる汗をアンダーシャツで拭いながら、実に楽しげな表情。
川口直也と山下達也は、そんな姿をブルペンで目を細めて眺めていた。
「サボってないで投げ込めよ」
直也の兄、信也の声で我にかえる2人。山下は慌ててマスクを着けると、しゃがみ込んでキャッチャーミットを構える。
直也は大きなモーションから山下のミット目掛けて右腕を振り抜いた。