やっぱすっきゃねん!U…@-9
ー夜ー
焼き鳥屋のテーブルを囲むように、3人の男が座っていた。
ひとりは先日、東海中学へ異動となった榊。その隣には現青葉中学野球部監督の永井。そして、2人の対面に座るのは藤野一哉だ。
「初めまして、藤野と申します」
〈こちらこそ〉と言って挨拶を交わす永井。少し緊張しているようだ。
無理も無い。11年前、テレビで見た甲子園準優勝投手が目の前にいるのだから。
ビールジョッキが運ばれて来た。3人は乾杯してジョッキを傾ける。
「ふうっ…うまい!」
半分ほどを一気に飲む。
すぐに大皿に並べられた焼き鳥がテーブルに置かれた。
思い々に串を取って口に運ぶ。そしてビールを飲む。
あらかた串が無くなり、ジョッキも空になった。
ビールのおかわりと焼き鳥の追加を頼んだ時、永井が切り出した。
「先日のお話、どうですか?」
藤野は笑みを浮かべて、
「基本的にはオッケーです」
「それは良かった!あり……」
永井は安堵し、感謝の言葉を述べようとするのを藤野が遮る。
「ところで、来年どこまで行きたいんです?」
永井は言葉の意味が分からなかった。それを察したのか一哉は、諭すように答える。
「私は5年間、小学生野球クラブのコーチをやってきました。従って今、青葉にいる部員達の殆どは知っています。
来年度のメンバーを考えた時、〈全国〉までいけるんじゃないかと思うんですよ」
「全国!…ですか?」
永井の驚いた声に、一哉は大きく頷く。
「…ただ、先日、頂いた練習メニューを拝見しましたが…」
一哉はそこで一旦、止めると榊を見た。榊はにこやかな表情で言った。
「藤野君、忌憚のない意見を頼むよ。その方が永井君も有難いハズだから」
その言葉を聞いて一哉は続けた。
「練習が足りません。特に下半身に対する練習が」
永井は両手をヒザに乗せ、背筋を伸ばして一哉の話に聞き入っている。
榊はそれを眺めて目を細める。
(これなら大丈夫だ…)
普通なら、10は年下の意見など受け入れがたいモノだが永井は違った。向上心がそれを上回っていた。
「すると、これから1月中は下半身強化を中心にやるべきだと?」
永井の意見に一哉は笑顔で、
「そうです。但し、子供は反復練習を嫌がりますから…そこは工夫をして……」
そう言って2冊のノートを永井に渡した。