DEEP DIVER玲那〜闇に沈みし者〜-22
「んんぁあっ!き、気持ち好いょお…!?あん、あんっ!!あ、行く、私、……逝くぅうっ!?」
一際大きな嬌声をあげ、環は激しく仰け反ると、飛沫を吹き出して果てた。全身の力を抜き、ぐったりと仰向けになる環。英美がそこから離れると、環は大きく足を開いたまま、赤い花弁からは尚もお汁を垂れていた。
玲那は金縛りにあったようにその顛末を見届けたが、ふとこれだけの大騒ぎをしている二人に対して、片岡女史が顔を出さないことに首を傾げた。何より、面談の終わっていない環を全く呼びに来ないのはおかしい。
そんな玲那の疑問を余所に、立ち上がった英美はポケットから取り出したハンカチでヌルヌルになった口元を拭い、今更のように玲那を振り返った。
「あ、あの、私…」
焦り、口ごもる玲那。
しかし英美は妖艶な笑みを浮かべ、玲那の瞳を射すくめるように見つめた。
「桜龍さん。私、一目見たときから貴女の事を気に入ったの。どう、一緒に楽しまない?」
一瞬、玲那は何を言われているのか分からなかったが、英美の体中をねっとりと舐め回すような視線を感じ、思わず胸を覆って身体を縮める。
「わ、私は…ちょっと」
何とか口からそう絞り出し、じりじりと後ずさる玲那。するとその時、背後に立つ誰かにぶつかって思わず振り返った。
「片岡先生!?あ、あの、これは…」
自分が悪いことをしていたわけでもないのに、咄嗟に何事か弁明しようとする玲那。しかし、片岡女史の様子が普通ではないことに気が付き、思わず固唾を飲み込む。
「大丈夫、何も怖がることはないのよ…」
無機質な言葉が片岡女史の口をついて出る。ふと周囲に気を配ると、いつの間にか幽界へ教室ごと移動させられていた。咄嗟に霊力を使って霊障を走査しようとする玲奈だったが、汚穢によってままならない。
一方その頃、玲奈の定期連絡が途絶えた事でダイアナは月狼を駆り、芳流閣高校へ乗りつけていた。後部座席には京都から戻ってきた葵が便乗している。
芳流閣高校は平和そのもので、校庭にはまだ部活の生徒が大勢いた。流石に正面から乗り込むわけにも行かないので、月狼を学校裏へ回し、二人は校舎を伺った。
「玲奈ちゃんが定期連絡を忘れるなんて考えられないわね。もう、連絡が途絶えてから二時間も経つわ。これは何か事件に巻き込まれたに違いないわね」
「ふん、あの莫迦娘、また一人で特攻を仕掛けたんじゃないだろうな…」
そう言ってサングラス越しに校舎を睨む葵。一見、平静を装ってはいるが、顔には焦燥感が滲み出ている。
その様子がおかしいのか、こっそりと小さく微笑むダイアナ。
「だけど、玲奈ちゃんの居場所が分からなくなっているからどうにも動きようがないわね…」
真顔に戻り、呟くダイアナ。
「ああ、それなら、月狼の探査システムを使って校舎を霊的な走査をしてくれないか?」
言われてダイアナは首を傾げた。
「スキャンって、良いけど…」
ダイアナはそう言ってフロントカウル内のデバイスを操作し、月狼に搭載された探査システムを展開させる。
「ん〜、霊的な事象も玲奈ちゃんの反応も、何も映らないけど………」
「変じゃないか。校舎の中にはまだ人がいるんだろ?いくら霊的な能力が低い人間だってわずかな反応はある筈だ」
言われてダイアナは不審な顔をしながらも頷く。
「確かに変ね。これじゃあ、この校舎自体が存在しないような…」
「そいつは霊波動吸収素材によるものだ。辰巳晃が鎮魂機関から資料を盗み出している。玲那から話を聞いてもしやと思っていたのだが案の定だったな…」
「成る程、霊波動吸収素材か…。気が付かなかったわね。霊波吸収体は霊能力者の力に精密機械が干渉を受けないよう、鎮魂機関のサポートメカには普通に使われている技術なのに…。この月狼にだって…」
得心して頷くダイアナ。