イヴの奇跡-8
だから神崎は
恋人も友人も作らない。
特別な存在は感情を左右されてしまうだけだから。
体は寝ることで休められても、心を休められる場所も人も無かった。いや、神崎の場合は作らなかったのだ。
しかし、
そんな心の疲れが、
たった今…
抜けたような気がした。
神崎のせいにするのではなく、疲れた体で自分のせいだと言った目の前の女の子のおかげで。
そして、
どうしようもなく愛しいと…
そう思ってしまった。
沈黙の中、神崎が口を開いた。
『お前が猫でも化け物でも…何でもいい。今のお前は、人間だ。キスも出来るし、こうして抱きしめる腕もあるんだからな。』
『ご主人…様…?』
イヴはもともと大きな瞳を更に大きくさせる。
『ご主人様ではなく…俺は、神崎だ。イヴ。』
初めて人間の姿で名前を呼ばれる。
『け…ぃ?圭?』
やっと、自分が神崎に拾われた猫だと信じてもらえた喜びでイヴの瞳には涙が浮かび、一筋流れた。
神崎はイヴの柔らかな唇にそっと軽い口付けをする。
『イヴ…愛してる。』
二人は暫く見つめ合い、また、どちらからともなく口付けを交わした。
今度は深い深い口付けを。