「美女と野獣・・・」-60
その１９
帰り際、誰も並んでいないバス停の近くを歩いている人に聞いて、
ようやく今の本当の時刻が分かった。
１０時半をまわっていてもバスに乗れる程、ここ多摩川周辺は栄えてはおらず、
仕方なく夜道を爽快に駆け抜けていたタクシーを拾う事にした。
タクシーの車内、ルームミラーに隠れる様にオレとＲは手を繋ぎ、
オレにとって初めて彼女を得た実感が沸々と湧いてきた。
このままどこかへ行ってしまいたい・・・
卵の様に柔らかくてシルクの様に滑らかなＲの手。
素直に手放したくはないと思った。
Ｒの手も、Ｒの事も。
軽快に走るタクシーとは裏腹に、
オレンジ色の街灯が、スカートから覗かせたＲの太ももを不一定的に照らしている。
来た時はのんびりユラユラとバスに揺られて小一時間掛かった筈が、
ものの２、３０分で待ち合わせをした公園の前に到着してしまった。
励ましてくれたカラスにお礼をしようと思ったが、当然もういるハズもない。
「・・・じゃぁ、ね。」
走り去るタクシーをよそ目に、オレはなかなか別れの挨拶が出来なかった。
付き合ったばかりだというのに、初日の別れを言い出しかねる。
遅いのは分かっている。なのに別れたくは無い。
中途半端に子供染みたオレに、Ｒがにっこりと微笑みかけた。
「私も・・・バイバイしたくないよ？」
スゲー可愛かった。
ずっと一緒にいたかった。
でも、オレはもう子供じゃない・・・
「・・・まぁ、・・またすぐに会えるし・・な。」
「うん！そだね。またすぐ会えるしね。」
「・・・んじゃまた！おやすみぃ！・・・好きだぜぇＲぅ。」
「私もＳくん好きだよ。おやすみぃ。バイバイ！」
路地へ入って見えなくなるまでＲは何度も何度も振り向いては、
白い歯を暗闇に浮かび上がらせた。
その光景が、今もくっきりと頭に焼き付いている。
Ｒのその笑顔・・・
可愛らしいその笑顔・・・