「美女と野獣・・・」-44
彼らのその後は知らないという。知りたくもないという。
しかし彼らの人生が台無しになったのだけは分かりきっている。
結局写真をバラまかれる事は無かったらしいが、
捕まったと言えども彼らの住む街にのほほんと暮らせるはずもなく、
その一件以降直ちに転校したのだ、と言っていた。
心機一転、じゃぁ次の学校で頑張ろう、なんて気分には更々なれなかった。
男恐怖症、いや、人間不信。
すれ違うのすら怖い。目が合うのすら恐怖。視線を感じるのすら堪え難い。
結果、自然とああいう目立たない格好になり、目立たない存在となったのだ。
忘れる事など一生出来ぬが、忘れたかった時に悪夢がやってきた。
生理が来ない。
想像はついた。
というより恐れていた事が現実になった。
ただそれだけ。
おめでたですよ。とはさすがの産婦人科医も言わなかった。
強姦によって出来た子供とは知らなくても、
若干14歳の中学生の来院では
何かを感づいて当然かもしれない。
誰のかは分からないが、あの6人のうちの誰かの子供である事実は払拭出来ず、
一つの小さな命といえど、出産して一生大事に育てろ、という方が鬼である。
担当医はこれ以上無い優しい顔でRに同情した。
噂というのはどこまで恐ろしいモノなのか。
それまでは風の噂だの、虫の知らせだの、
ただ話しのネタとしてだけに存在する一つの種にすぎない、とオレは思っていた。
どこから情報が洩れたのか知らないが、
転校した新たな学校でRが子供を堕ろしてる、という噂が広まったという。
転校生に対するイジメの一種?
からかい半分?
根も葉もない事実を言われるイジメなんて、なんて軽いイジメなのだろう。
だがRにとっては根も葉もクッキリと存在する事実。
この上ない屈辱。拭いきれない過去。夢も希望も無い未来。
死のうと思ったのも事実。
転校という逃げに走ったのも事実。
たった3年、されど3年。
今、オレの目の前に座っているRはそれだけの経験をしてるのに、
なのにオレより立派に日々を過ごしている。
オレより立派な笑顔で笑う事が出来る。