「美女と野獣・・・」-41
「・・・好きなんだよ。オレ。Rの事が。」
さっきは花火にかき消されたが、
さすがに今回は、周りで小さく鳴いている虫の声だけではかき消されなかった。
「えっ?!」
Rは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにうつむいてしまった。
「別にその変貌ぶりに惚れた訳じゃないかんね。いつもの地味なRの時からいいと思ってた。」
「・・・・・」
「結構電話で話してさ、気も合うし、本性は明るい所も知ってるし。」
「・・・・・」
「子供みたいに笑うその無邪気な笑顔もまた堪んないしさ。」
「・・・・・」
「・・・イジメなんて気にすんなよ。オレがふっ飛ばしてやる!」
「・・・・・」
「・・・だから・・・・・オレと付き合ってくんねーかな・・・?」
「・・・・・」
重苦しい沈黙の間に聞こえる虫の鳴き声と川のせせらぎが
心地良くもあり、不気味にも感じる。
さっきまではちらほらとカップルがイチャついていた土手には
気が付くと誰もいなくなっていた。
「・・・・ありがとうね。」
重たげにずっと下を向いていた顔がようやく上がり、オレと目が合った。
「・・・私もね・・・私もSくんの事好きだよ。けど・・・付き合えないの・・・」
まるでチャリンコをよけたら車にひかれた時の様な
意表を衝いたその返事に、オレは嬉しくもあったが、イラつきもした。
「・・・ダメなら好きなんて言うなよ。なお辛いって。逆に後味悪ぃよ。」
「違うの!・・・ホントに好きなんだよ。でも・・・でもね・・・」
「・・・・・でも何?」
風が再び強く吹き、髪がなびいてRの顔を隠した。
涼しくて心地良かった夜風も、いつの間にやら肌寒く感じる。
遠くに見える橋を行き交う車のライトの数で、
もう既に結構遅い時間なのだという事が分かった。
「・・・私ね・・・・・」
「・・・うん。」
「・・・私・・・・・」
吹いていた風が突然止み、
髪で隠れていたRの顔が再び姿を現した。
と同時に一粒の涙がポロリとRの頬を伝った。
「・・・堕ろしてるんだ。・・・子供。」