「美女と野獣・・・」-36
1時間位が経過しただろうか。
花火が打ち上げられてからRはずっと花火を食い入る様にただただ見つめ、
何かを思い出しているかの様に無言で物思いにふけっている。
その場の雰囲気とRの変貌ぶりについつい言葉を発しそうになったオレも、
その後はずっと黙り込んで花火に見惚れていた。
しばらくして、連発して轟いていた轟音が長らくシーンとなり、
それまで耳に入らなかった見物客のざわめきが聞こえてきて、
この花火大会が幕を閉じたんだという事を認識させた。
蟻の行列とはまた違っていたが、大勢の人々が一斉に川沿いの道へ向かって歩く様は
やはり大量の蟻が甘い果物に向かって行進している様に見える。
「もう終わっちゃったね。」
「あぁ。ちょっとここで話でもしてく?」
「そだね。ごめんね。ずっと花火見入っちゃって。」
「いいよ別に。花火好きなんでしょ?凄かったモンなー!デカかったし。」
「ねー!すごいキレイだった!良かったぁ今日ここに来れて。ありがとね。」
「全然オッケー!つーかRが言わなきゃオレ、この花火大会知らなかったし。はは!」
「あははは。」
真夏のクソ暑い日差しが嘘の様に、
今は涼しい夜風が肌を冷やしてくれていつまでも何時間でもここにいれる、と思った。
「眼鏡無い方がずっといいよ。今はコンタクト入れてるんでしょ?いつもソレにしなよ!」
ずっと可愛いよ、と言おうと思ったが、軽く見られたくないのでわざと濁した。
「うん。・・・だよね。・・・・・そうだよね。」
「みんなビックリすんぜー?!驚く顔が頭に浮かぶよマジで!」
内心Rが可愛いのがみんなにバレるのは嫌だったが、
予想外のぎこちない返答にそう言わざるを得なかったのだ。
「・・・実は・・・ね?私・・・眼、悪くないんだ。」
相当悩んだ挙句に発したであろう事はオレにも分かる。
「・・・なんでまた?」
オレの予想はおそらく当たってるだろう。が、オレの口からは言えない。
たぶんRも上手く濁すと思っていたが、そこは予想に反した。