「美女と野獣・・・」-30
結局その日、Rは一日中体操着のままで過ごした。
何人かの先生達は必死に制服を探し歩き、
同時に犯人探しをしていたが、
クラスの連中と他のクラスの連中はさほど大事件との認識が無く、
いつもと変わらない賑やかな一日だった。
それからRは1週間ほど学校に姿を現さなかった。
いつもの事だから・・・
平然とした顔でRはそう言ったが、
その一言でイジメが常習だという事に確信せざるを得ず、
もう二度とこの学校に来ないのでは・・・?
もう二度とRと会う事が出来ないのでは・・・?
などと思い悩んでいた矢先に、ひょっこりと登校してきたRを見かけた時、
Rに惹かれている自分に初めて気が付いた。
おそらく新調したであろう制服を身にまとい、何ら変わりない様子でトボトボと歩いていたのだが、
再びちゃんと学校に来た、というホッとした安心感よりも、
また毎日Rと話しが出来るんだ!という嬉しさの方が遥かに大きかったからだ。
相変わらず膝丈スカートにノーマルソックス、
茶縁めがねに化粧っ気無しのド地味な格好だったが、
その奥に秘められた愛くるしい笑顔を知っているだけに、
オレの中ではもっと地味でも良いのでは?とさえ思う始末だ。
「おはよう。」
明るすぎず暗すぎず、微妙な話し加減でオレはRに挨拶すると、
Rはにっこり笑って、おはよう!と言い返してくれた。
制服を奪われた人の成せる事ではない。
制服を新調し、それが手元に届くまで休んでいたという。
見つかってたかもしれないのに?と、あと少しで言いそうになったが、
制服紛失が何度かあるRにすれば、一度無くなれば見つからないし、
もし見つかっても再び着れる状態ではないのを知ってるからこそ
すぐに新調したのかもしれない、と思ったので言い留めた。
1週間ぶりのRが教室に入っても、誰一人声を掛けるヤツはおらず、
オレ以外の奴等にはRが見えないのか・・・?とさえ思ってしまう。
しかしながらRに惹かれだしてるオレにはむしろその方が好都合な訳だ。
未だ誰もRの素顔を知ってるヤツはいない。
眼鏡の奥に秘めた愛くるしい素顔を。
この上なく可愛い笑顔を。