Ethno nationalism〜決断〜-9
訓練も大詰めを迎えたある日、ナターシャにまたも事件が起こる。
パレスチナ・ゲリラによる襲撃に見舞われ、ゲオロギーとパブローチカが遺体で発見されたと。
ナターシャは飛んで帰った。
遺体は教会に集められていた。
無惨なまで原型を留めぬ骸が並んでいた。ナターシャは必死に祖父母を探した。
そして1時間後。
黒く焼けただれたゲオロギーと、身体に無数の穴が空いたパブローチカを見つけた。
「…お祖父様…お…お祖母様……こんなに…」
ナターシャが最後に流した悲しみの涙だった。
彼女は誓った。祖国イスラエルのために死ぬと。
以来、数々のオペレーションを繰り返してきた。
「…!」
ナターシャは飛び起きた。息は荒く、目は虚ろだ。
「…お父様…お母様。お祖父様、お祖母様…私を見守っていてね……」
その時、携帯が鳴った。
ナターシャはディスプレイを見つめる。
その瞬間、虚ろな目は氷のようなシャープさを取り戻す。
ナターシャ・クチンスカヤことマリア・コーエンは部屋を後にした。
ーヒースロー空港ー
香港をトランジットして藤田が到着したのは、翌日の昼前だった。
イギリスの厳しい入国審査を終えた後、すぐに相川が持つ自分の携帯に連絡を入れる。
するとすぐに相川が出た。藤田は不可解な思いで語り掛ける。
「どうしたんだ?」
「昨日、チャールズ・オブライエンと名乗る男から連絡が入ったんだ」
「それで?」
「取材の件でお前に尋ねたい事があったらしい。しつこく聞くんでイギリスに行ったと答えたら、〈じゃあ会って話す〉と言っていたが……」
藤田の頭に疑問符が浮かんだ。
(…おかしいな。先日、原稿はオッケーだと言っていたが……)
「聞いてるのか?」
「ああ、分かった。聞いてみるよ」
電話が切れた。藤田はすぐにブリティシュ・グラフィックス社に連絡を入れる。
すぐにチャールズ・オブライエンが電話に出た。藤田は先ほど聞いた内容を彼にぶつけると、オブライエンは一笑に附した。