Ethno nationalism〜決断〜-8
クチンスカヤ家が、ソビエト連邦衛星国だったクロアチアからイスラエルに移民したのは建国して2年後の1950年だった。
ゲオロギーとパブローチカは懸命に働いた。2,000年間、流浪の民として虐げられてきたユダヤ人が、やっと手にした国を守るために。
4度の戦争を潜り抜けながら、イスラエルは国家として確立していった。だが、パレスチナとアラブ諸国との確執はドロ沼と化していった。
そんな中、2人の娘、コンスタンチアは幼なじみと結婚し、2年後にはナターシャを産んだ。まさにクチンスカヤ家の絶頂の時だった。
だが、幸せは長く続かない。
ある日の昼、クチンスカヤ家が住む街のサイレンが鳴り響いた。それは敵襲を意味していた。
ゲオロギーとパブローチカは、ナターシャを連れて自宅地下のシェルターに隠れた。
イスラエルで一軒家を建てる場合、シェルターを設ける事が義務付けられているのだ。
ナターシャの両親は、街を守ろうとマシンガンを手にして戦った。
銃声が止んだのは、30分後だった。恐る々シェルターを出てくると、そこには累々と横たわる死体の山が目に飛び込んできた。
恐怖におののくゲオロギーとパブローチカ。
遅れて出たナターシャは2人の横から、その惨事を見てしまった。
「いやあああぁぁぁーーっ!!」
悲鳴にも似た声を挙げたナターシャは、両親とおぼしき骸に駆け寄った。
「お父様!お父様!起きて」
だが、すでに肉塊となった2人に声を掛け身体を揺すろうとも、2度と目を覚ます事は無かった。
それからのナターシャは祖父母に育てられた。
持ち前の明るさから、彼女は悲痛な感情を祖父母に見せまいと努めた。だが、夜になると、ひとり枕を濡らす日々だった。
そうして10年以上が経った。ナターシャは美しく変貌をとげ、街の様々な男達が彼女に結婚を申し込んで来る。しかし彼女は、それを丁重に断り続けていた。
そんなある日、ひとりの男が訪ねて来た。ナターシャはいつもの〈求婚〉だとタカをくくっていた。
だが、男は開口一番、違う言葉を発した。
「あなたがテルアビブ大学にスカラシップ(奨学金制度)で入られた事、しかも成績は常にトップだという事を我々は高く評価しています」
そこで男はひと呼吸置いた。ゲオロギーとパブローチカも心無しか、顔が紅潮している。
「ぜひ、卒業後に私達の機関に入って頂きたいのですが。むろん無理強いはしません。あくまで貴方の自由意思です」
ナターシャに異存は無かった。
母国イスラエルの役に立つならばと、彼女はその場でサインした。
訓練期間中、彼女はめきめきと頭角を表した。護身術や肉弾戦、爆弾の製造などを次々とこなしていく。
その中で、とりわけ素晴らしかったのが銃だった。分解、組み立てや機種による様々なクセはもちろんだが、なにより射撃の腕は抜きん出ていた。