Ethno nationalism〜決断〜-7
「おいナオッ!聞こえてるんだろ。返事をしてくれよ」
すると始めて相手が喋りだした。
「ウェイト…ウェイト…」
その声は藤田の声ではなかった。
(やはりな……)
口元に笑みを浮かべ、マッケイは待った。すると、少しボストン訛りのある女性の声が聞こえてきた。
「ミスター・オブライエン。藤田は今、ここにはいないんです」
「…アンタは誰なんだい?」
すると、しばらくの沈黙から再び女性が答える。
「藤田の友人です。彼からこの電話を預かったのです」
(なるほど…それでGPSが……)
「彼は何処に?すぐに連絡をとらないと原稿に穴が空いちまうんだ!」
マッケイの半ば強引な言葉に、女性は折れたのか、
「藤田はイギリスに向かったそうです」
「なんだ!こっちに向かってるのかい。じゃあ到着したら連絡があるな」
それだけ言うと電話を切り、今度はヘブロン商会に電話を入れた。
すぐにキャロルの甘い声が受話器に響いてくる。
「マッケイだ。ターゲットはイギリス。私は最終便でそっちに帰る。〈ヤコブの弟子〉を呼び寄せてくれ。
それから成田発のヒースロー直行便を」
キャロルはマッケイの指示に、緊張した面持ちで〈分かりました〉と言うと、
「ああ…それから、ロンドン支部に連絡を。あそこは我々のヨーロッパ最大の支部だからな」
マッケイはニヤリと笑った。
「…う……く…うう…」
ナターシャ・クチンスカヤはうなされていた。それは彼女が、まだ8歳の頃の夢だった。
「ナターシャ。そろそろお家に入りなさい」
ゲオロギー・クチンスカヤは目元をシワだらけにして孫に優しく語り掛ける。
「お祖父様見て!こんなにお花が」
ナターシャは満面の笑みで両手を高く掲げ、ゲオロギーに見せた。それはスミレの花だった。
その声を聞いた祖母のパブローチカはキッチンから出てきて、ナターシャの頭を撫でると、
「キレイね。あらあら、手が泥だらけよナターシャ。手を洗って。じき夕食よ」
「は〜い」
パブローチカの言葉にナターシャは、にっこり笑うと洗面所へと走って行く。その姿にゲオロギーとパブローチカは目を細める。
ナターシャの両親はいなかった。