Ethno nationalism〜決断〜-3
「村瀬に聞いたよ。災難だったらしいな」
相川の声は笑っていた。が、藤田はそれを無視するように、
「お前に頼みたい事が有る!今から会ってくれないか?」
「今から?」
相川は戸惑いの声を挙げ、しばらく黙ったが、
「分かった。すぐに署に来てくれ」
「すまない」
藤田は電話ボックスを飛び出し、タクシーを止めて乗り込むと、赤坂方面へと向かった。
ー東京ー
「ボスッ」
〈ヘブロン商会〉のレジ係こと連絡員との繋ぎ役でもあるレイチェル・クラウチックは、アラン・マッケイに伝言を伝えるべく事務所のドアーを開けた。
その姿を見たアラン・マッケイはいつもの笑みで、
「レイチェル。慌ててどうしたんだい?」
対してレイチェルは焦った顔のまま、
「〈回収〉に失敗しました!」
レイチェルの言葉にマッケイは、イスの背もたれに身体を預けると頭の後に腕を回し、
「…仕方ないな。本人に聞くしかないか」
あっさり言ってのけるマッケイ。彼の言う〈本人に聞く〉とは拉致を意味していた。
「では〈グール〉に伝えますか?」
窓際の席でやりとりを聞いていた、経理係こと連絡係のキャロル・リークックは、マッケイの指示を待った。
マッケイはしばし考えると、
「いや、しばらくは監視だけでいい。今はガードを固めてるだろう」
「分かりました」
キャロルは受話器を取ると電話を賭けて喋っている。それは流暢な日本語だった。
「そうだ。監視を続けろ。但し、連れ去り可能なら実行しても構わない。その際は事前連絡を…以上、繰り返えされたし」
わずかな時間で電話は切れた。それを眺めていたマッケイは首を振って、
「君の日本語は完璧だな…」
キャロルは笑顔をたたえながら、
「そう言うボスのアラビア語も素晴らしいですわ」
「ハハッ、5ヶ国語を使いこなす君に言われると嫌味に聞こえるよ」
マッケイは笑いながらキャロルに近づくと、声のトーンを落とした。
「〈ヤコブの弟子〉にはそのまま待機と伝えてくれ。それと福岡往きのチケットを取ってくれないか」
「…じゃあ……」
キャロルの言葉にマッケイは頷く。
「私も行こう」
その目には表情が失われていた。