Ethno nationalism〜決断〜-10
「ナオ、エイプリルフールには随分と早いぜ。お前さんがオレの声を聞きたいのは嬉しいが、残念ながら違うよ」
(…やっぱりヤツラか……)
藤田は一変、話題を変えた。
「ところでチャールズ。この間、言っていたウィンザーのアパートは、まだ空いてるのかい?」
「ああ、そのままだが?」
「そこを1週間ばかり貸してくれないか?もちろん料金は払うから」
藤田の申し出にオブライエンは鼻を鳴らす。
「随分水くさい事を言うんだな。金なら要らんよ。連絡をしとくから好きに使ってくれ。となりの大家がカギを持ってる」
「すまないな」
オブライエンは、何かを感じ取ったのか藤田に聞いた。
「ナオ、何かあったのか?」
藤田は明るい口調で答える。
「借金取りから逃げてるようなモンだ。もし、そっちにオレを尋ねる電話があっても……」
「分かってる。知らないと言っておくよ」
オブライエンは、笑いながら答えると電話を切った。
(これで2〜3日は時間を稼げる)
ヤツラからすれば藤田を消すなど造作も無い事だろう。だが、不思議と恐怖感は無かった。
(先日はあれほど〈死〉を恐れていたのに……)
藤田はウィンザー往きのバスに乗り込んだ。