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テーブルの上の胡椒入れ
【二次創作 恋愛小説】

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テーブルの上の胡椒入れ-2

「「かんぱーい!」」
気取らないけれど、美味しいイタリアンの店で乾杯する。
「トラブルは大丈夫だったの?」
「あー、平気、平気。ちょっとした事だったし。でも派遣の子のせいだったのに、早々に帰った上、連絡付かなくって〜。全く使えないったら。」
と、彼女は顔をしかめ、グサリとサラダのオリーブにフォークを刺し艶やかな唇へ運ぶ。
彼女と私はよく似ている。考え方とか、置かれた立場とか。入社してから徐々に減っていく女子社員の中、只の友人と言うか、戦友に近い。

パスタが来ても私たちの話題は一向に尽きない。上司や、後輩への愚痴・噂はたっぷりと有るのだ。「ん…何か‥」
「え?何?きょろきょろして。」
「いや、胡椒が少し足りないかなって。」
「そぉ?私には丁度いいけど。かけたら、胡椒。」
はい、と手渡される。
「やだ、こんな近くに有ったのに、さっきすごく探しちゃったわ。」
「ふふ、灯台下暗しって奴?」

デザートがくる頃には、話題は、今年の冬の休暇の予定へと移っていた。
「今年は、そうだなぁ。実家に長居してても、結婚しろとかどうとか五月蝿いしー。海外にでも亡命しようかしら?どう?一緒に。」
ベリーのシャーベットをすくいながら冗談めかして聞いてくる。
「そうね、結婚してない女は居場所は無くても身軽だもの。いっそ高跳びしましょうか?」
明るく調子を合わせたつもりが"居場所が無い"と言った言葉だけ、変に重みと湿度を持ち、少し喉に引っかかってしまった。
何だと言うんだ、今日は。
私は今の、やり甲斐のある仕事に夢中で満足しているんじゃないの。

その感覚を流し込もうと、シャーベットをもう人匙すくう。
ピンクのそれを見た時、ようやく自分の中に渦巻いているモノの輪郭が浮かんだ。
そっ‥か。
私は少しだけ、出来れば認めたくはないけれど、やっぱり惜しんでいたのだ。

あの、凡庸な幸せを。

携帯の待ち受けを妻子の画像をするようなダサい男を夫にするのは、私だったかも知れなかった。
あの人と私に似た娘と、小さな画面から微笑みかけるのは私かも知れなかった。

仕事を迷わずに取り今に至っている私が、丁度さっきの胡椒入れのように、見ていたのに見えていなかった幸せの可能性を、近くにありながら気付きもしなかった昔の自分を、
ほんのちょっと、悔やんでいる。

私は無言で残りのシャーベットを食べ終わり、どこの国が良いかと列挙する友に清々とした笑みを向けた。


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