『ぼくをかいませんか2 side-K』-6
「よろしくね、トーコさん。」
『今日は疲れたから、休むね』
ソファでテレビを見ていた俺にトーコさんはそう言った。
「じゃあ僕も!」と言ったら、リビングのソファに布団と枕を置かれた。
何だ?ここに寝ろって?
「これじゃ寒いよ。」
甘えた上目使いでそう言うと、更に毛布を出してきた。
この女……
やっぱり『買う』の意味取り違えてるんだ。
今まで経験したことのない敗北感に呆然とする。
そんな俺にはお構い無しにトーコさんは、俺の頭を撫でて「おやすみ、クロ。」そう言って寝室へと消えて行った。
俺、完璧犬扱いされてるな。
―――――…
―――…
深夜
何かの声で目が覚めた。
それは本当に小さな声で。自分でもよく目が覚めたなと思うくらい微かな声。
何だろ。トーコさんか?
俺はトーコさんの寝室の扉をほんの少し、開けた。
そこには
ベッドの上で頭からスッポリ布団を被った彼女の姿。
それは微かに震えている。
泣いてるのか?
時々聞こえてくる小さな声。
それは広いベッドの上で丸まった彼女の姿と同じ。
俺は目を疑う。
信じられない。
こんな女が存在するのか?
今まで俺が会ってきた女達は、全ての悲しみを背負い尽したような顔をして、自分が悲劇のヒロインになったような…
そんな女達ばかりだった。
こんなふうに一人きりで声を殺して泣く女が居るなんて……
「トーコさん…」
静かに、ベッドへ近付く。
ビクッと布団が震えた。
そっと、その布団をはがすと、中から小さなトーコさんが姿を見せた。
細い肩を抱いて、目に涙を浮かべて、枕を濡らしている。
こんな女、俺は知らない。
こんな弱い女を、俺は知らない。