『ぼくをかいませんか2 side-K』-5
タオルでガシガシ髪を拭きながらリビングの扉を開けると、そこは暖かく、旨そうな匂いが漂っている。
あー、腹へった…
その香りが俺の腹の虫を起こした。
寒さが治まったら、次は空腹。わがままな俺の体。
寝床さえあれば…なんて思ってたくせに、次から次へと欲求は増える一方だ。
俺の姿を確認すると、女はダイニングのテーブルに皿を乗せたお盆を出した。
クリームシチューに、トーストしたフランスパン。フルーツのたくさん入ったヨーグルト。
「こんなものしかなかったけど、良かったら食べて?」
「ありがとう!」
素直に嬉しい。
俺は椅子に座ると、目の前のご馳走にがっついた。
あー、うまい。
やっぱり何とかしばらくこの家に住み着きたい。
どう攻めようか…
そう思い、目線だけ上に向けると、女は向かいの席からワインを飲みながら俺を見つめていた。
なんだ?
俺はスプーンを置いた。
「名前は…何ていうの?」
おっ、来たね。この質問。
俺はいつものセリフで返す。
「名前は…ないんだ。おねえさんが付けてよ。」
甘えた口調で言ってみせる。
俺は名前を付けてもらうことで、この家での居場所を得る。
そして、名前を付けてもらうことで女の支配欲を煽る。
『この子は私のものよ!』って思わすわけだ。
女は目を丸くして驚いていたようだが、フッと笑って、
「じゃあ、クロ、ね。」
と、言った。
――犬かよ。
女に合わせて俺も笑う。
にっこりと。嬉しそうに。
ひきつって…ないよな?
「おねえさんは?名前何ていうの?」
俺の問いに、女はテーブルに指で『桃・子』と書いた。
「『ももこ』って書いて『とうこ』って言うの。よろしくね、クロ。」
微笑む『とうこさん』はとても美人だけど…
やっぱり何か犬を呼ぶような…