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死神の恋
【悲恋 恋愛小説】

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死神の恋-2

その日、俺達は街で映画を見た後、電車で地元まで戻り小さな公園のベンチに二人で座って話をしていた。いつもの事だが一方的に彼女が喋っている。別に彼女がおしゃべりな訳ではない。俺が全く喋らないだけだ。正確には、喋りたくないだけなのだが。
「ねぇ俊也君。聞いて欲しい話があるんだ。」
それまで取り留めの無い話を繰り返してした彼女が、突然声のトーンを変えた。俺は視線を正面から、すぐ右の彼女へと移す。彼女の瞳には迷いの色が見てとれた。
「驚かないで聞いてね。」
次に彼女が発した言葉は驚くべきものだった。
「あたしね。もうすぐ死んじゃうの。」
何を言いだしたんだこいつは。
「ほんとはもう一年も前に宣告はされてたんだけどさ・・・」
こんな嘘を俺が信じるとでも思ってんのか?
「そしたら今度はすぐ、前の彼が交通事故で亡くなっちゃってね」
大体、こんな嘘ついてどうする気なんだ?
「私、半分おかしくなっちゃって・・・。もう、誰でもいいから拠り所が欲しくて・・・。すぐ新しい彼作ったんだけど、その人も死んじゃった・・・」
いつの間にか、彼女の目には涙が浮かんでいた。
「それから学校では死神なんて言われて、もう全部どうでもよくなって、みんな拒絶して閉じこもってたら、だんだん噂もエスカレートしていって・・・」
確かに筋は通ってるじゃねぇか。だがな、俺は騙されない。騙されない。騙されない・・・。
「私、本当に死神なのかもしれない。みんな、みんな死んじゃう・・・。ねぇ、俊也君は絶対死なないで!ずっと傍にいて、お願いだから!」
彼女は俺の肩を掴んで激しく揺らして訴える。
その時、俺の中で何かが音を立てて切れた。
俺は彼女の手を振り払って、勢い良く立ち上がった。彼女はあの告白して来た日の様な、きょとんとした目で俺を見上げる。
「冗談じゃない。」
「えっ?」
彼女は困惑していた。瞳に溜まっていた涙がすーっと流れ落ちる。
俺はそれだけ言うと、彼女に背を向けて逃げるように走りだした。

俺の名を呼ぶ声が聞こえる。俺には、それがまるで死神が自分を地獄に連れて行こうとして呼んでいる様に聞こえた。
俺の頭には、実はあいつが自身の彼氏を殺したのではないかという考えが巡っていた。
彼女は自分の余命がいくばくも無い事を知って、自身の彼氏を道連れにしたのではないかと。
それは則ち、俺が彼女の話―彼女がもうすぐ死んでしまうという事―を信じていると言うことになる。だが、混乱していた俺は、にも関わらず彼女の話を信じてはいなかった、否、信じようとしなかった。
結局俺は死ぬのが恐かったんだ。裏切られて、傷つくのが恐かっただけなんだ・・・。

しばらく走って、後ろを振り返ってみる。当然だが、彼女の姿は無かった。
俺は頭を冷やそうと、冬の冷たい空気を思いっ切り肺に送り込んだ。
俺は学校で彼女と会ったらどうしようなどと悩んでいたが、それは杞憂に終わった。なぜなら、彼女はあの日以来全く学校に来なかったからである。
最初のうちはほっとしたものの、一月程経って何故だか言い知れぬ寂しさが込み上げて来た。
気付けば、あの3ヶ月間。いつも彼女は俺の隣にいた。
物足りなさを慢性的に感じる。苛立ちが募る。しかし、あいつを拒絶したのは俺自身だ。誰にも文句は言えない。
そんなある日、俺の自宅に一本の電話が来た。

それは、病院からの電話だった。
真っ白だった。ただひたすら祈った。間に合ってくれ、と。
彼女の命の燭はまさに消えようとしていた。彼女の話は本当だったのだ。後悔している余裕なんてなかった。いや、猛烈に後悔していたのかもしれない。よく覚えていない・・・。ただ、ひたすら祈っていた。
タクシーが病院に到着すると、俺は脱兎の如く駆け出した。そしてふと、子供の頃、何かでこの病院に来て中で走り回っていたら、母に叱られた事を思い出した。意外に冷静だったのかもしれない・・・。
俺は電話で聞いた病室に飛び込んだ。
部屋の中には親戚らしき人々が、沈痛な面持ちで佇んでいた。俺はすぐに遥香に駆け寄って、彼女の右手を両手で包み込んだ。温もりが伝わってくる。間に合った・・・!


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