Ethno nationalism〜契り〜-9
ー翌朝ー
村瀬の思惑通り、報告書は課長から署長へと提出された。
村瀬は今後の捜査を考えて、入国管理局で得た1万人の外国人データーを丹念に調べていた。
昼前、入国者をパソコンにかじり付いて調べている村瀬の前に相川が現れた。
「どうだ。昼飯でも」
調査に没頭している村瀬にすれば、本当は昼飯なぞ食ってる場合ではなかった。だが、先輩である相川の誘いとあれば断わる訳にはいかない。
仕方なく調査を中断して署外へと出ていった。
相川が誘ったのは、署から500メートルほど東にいった場所にある焼肉屋。そこは暴力団などが日頃から出入りする店だった。
その3階の個室へと村瀬は連れていかれた。
ランチメニューでないメニューを焼いて口に運ぶ相川と村瀬。
2人とも言葉を交さず、黙々と食べていく。
「ふうっ…」
村瀬がひと心地着いた。相川は冷えたお茶を飲みながら言った。
「お前に会ってもらいたいヤツがいるんだが……」
村瀬は〈やっぱり〉と思った。
いくら先輩でも、タダでこれだけの食事を食わせてくれる訳がない。
「…誰…なんです?」
村瀬の問いかけに相川は即答する。
「お前が捜査している佐伯栄治の知り合いだ」
「なんですって!」
村瀬の語気が強くなる。相川は言葉を選ぶように、
「明日、会って欲しいんだ。何時頃が空いてる?」
村瀬は興奮を覚えた。ひょっとしたらホテルで切れた佐伯の動行が繋がるかもしれない。
「時間はいつでも構いません。会わせて下さい!」
「分かった。じゃあ夜8時頃にそいつの自宅へ行こう」
「自宅って…ここに住んでいるんですか?」
村瀬の質問に相川はニヤリと笑って答える。
「しばらくはな……」
昼食を終えて署に戻ると、村瀬を課長が待ち構えていた。