Ethno nationalism〜契り〜-7
「顔立ちはこんな感じですか?」
村瀬の言葉に、バーテンダーはディスプレイをじっくりと見つめると、
「もう少し目が大きく…その、鼻筋も通っていて…」
もう1時間以上この調子だ。村瀬はうんざりしながらも、表情には出さずに、
「今の通りに調整してくれ」
村瀬の言葉に技師はうんざりといった表情を露にして、
「…またですか?」
「頼むよ」
技師が〈やれやれ〉と言ってキーボードを叩き、マウスを操作すると、ディスプレイの顔が微妙に変化した。
「どうです?」
「…だいたいそんな感じかなぁ……でも、本物はその100倍は美しかったですね」
ようやく出来上がった似顔絵に満足したのか、バーテンダーは帰っていった。
「これを写真サイズに100枚ほど印刷しといてくれ」
そう技師に告げると、遺留品置き場へと向かった。ホテルから預かった佐伯の荷物が保管してある。
すでに鑑識による調査済みで、佐伯とホテル従業員以外の指紋は無かった。
ダッフルバッグ。中身はパスポートにビザ、数冊の契約書に数着の服。
村瀬がパスポートをチェックすると、11月15日に入国しており、この数年、半年毎に10日間程入国を繰り返している。中身から考えれば、ビジネスだろう。
次に契約書を眺める。家電品や食品の売買契約。
(貿易商なら当然だな)
そう思って他の契約書を見た時、村瀬の手が止まった。
(アルミパイプ……?4,500本。ベイルートの貿易商が、アルミパイプなど何に使うんだ?)
別の契約書に手を伸ばす。
(小型精密モーター…1,200個?購入先はインド……こっちはテレビゲームが…2,000台!…ベイルート…)
村瀬は何ともいえない感覚に襲われた。
(こいつは……)
村瀬は遺留品置き場を飛び出した。
2人の自宅からクルマで15分ほど離れた場所にある小高い丘にあるホテル。
その5階の展望レストランに藤田と静代は来ていた。
淡い照明とテーブルのキャンドルライト。壁の大部分が窓になった外からは、きらびやかな夜景が見渡せる。
「こんなロマンチックな場所で食事なんて初めてよ」
ワインの酔いも手伝ってか、静代はいつにも増して笑顔を振りまいていた。