Ethno nationalism〜契り〜-6
ーイルパラッ〇オー
「この男に間違いないですか?」
「ええ、一昨日お越し頂いた佐伯栄治様に間違いありません」
ここはホテルの従業員室。その奥にある応接室で、村瀬はマネージャーに聞いていた。
15畳は有るだろうか。白を基調とした造りは清潔感が漂う。壁のゴーギャンが、さすがにホテルの応接室と感じさせる。
マネージャーは従業員に指示して、台帳と荷物を持って来させた。
「11月24日にスイートを2部屋予約されて、その日の夕方にチェックインされてます。
それから、こちらが佐伯様からお預かりした荷物です」
マネージャーはそう言うと、台帳と荷物を村瀬の前に置いた。
(確かに18時20分にチェックインしている……これは?)
「この、マリア・コーエンと言うのは?」
「ああ、その方は佐伯様の紹介で来られました。佐伯様は以前からウチをよくご利用頂いてましたから」
「すると、パスポートチェックもなされなかった?」
急にマネージャーの顔が曇る。
「まあ…そうですね……」
村瀬はマネージャーに笑顔を見せると、
「今の話はオフレコですから。気にしなくてよろしいですよ」
マネージャーの顔に生気が戻る。
「あ、ありがとうございます!」
「他にはありませんか?このマリア・コーエンについて。出来れば顔写真を作りたいので」
「なにしろ凄い美人でした。それこそモデルのように。私はチラッとしか見てないですが、あんな美人初めてですよ。
そうですね……長い時間見たとなるとバーテンダーでしょうか」
「その方を紹介してもらえますか?もちろん任意ですが」
村瀬の言葉には有無を言わせぬモノがあった。ようは先ほどの失態に目をつぶる代わりに協力しろと言うのだ。
「分かりました。協力致します」
マネージャーは力無く答えた。
村瀬はイルパラッ〇オを後にすると入国管理局へと向かった。
マネージャーの話では、バーテンダーは午後3時出勤との事で、そのまま警察署に向かわせると言っていた。
ならばその間、マリア・コーエンの足取りを掴もうと考えたのだ。
村瀬は過去ひと月分の外国人入国者数から洗って見る事にした。
しかし、その数、約40万人。
最近のテロ騒ぎで入国管理が厳しくなり減少傾向にあるとはいえ、この中から1人を見つけ出すのは砂浜に落ちた針を探すようなモノだ。
村瀬はマネージャーの言葉から、まずアジア系、アラブ系外国人を省いた。
これだけで約30万人。残り10万人。そこから女性だけをピックアップすると4万人程となった。
(…これでも多いな……)
彼はさらに20〜30代の観光ビザで入国した者に絞り込んだ。すると1万人程度まで減った。
村瀬はこれをデータコピーすると、急いで署へと戻っていった。