Ethno nationalism〜契り〜-5
しばらくの沈黙。外は暗くなり、クルマのヘッドライトが時折、店の中を照らしていく。
(…なに!)
夕刊を持つ藤田の手に力が入る。その形相が一変する。それは小さな記事だった。
《中央区の公園に遺体》
〈11月25日早朝、中央区の大濠公園で倒れていた佐伯栄治さん(35)貿易商 を近所の住人が見つけ、110番通報した。
現在、県警では自殺と他殺の両面で捜査中〉
たったこれだけのベタ記事。
だが、佐伯を知る藤田には充分だった。
(…何故…11月25日というと、アイツから連絡を受けた翌日だ。急用とか言っていたが…それと関連があるのか…)
藤田は〈すぐに戻る〉と言って店を飛び出すと、携帯で相川を呼び出した。
「要点だけ話す。一昨日の佐伯栄治についてだ。彼はオレの友人なんだ」
藤田の言葉に、相川は凍りついた。
「おい!聞いてるのか」
「…ああ、ここじゃマズイ。明日、会わないか?」
相川の口ぶりに、藤田はただならぬモノを感じた。
「分かった。明日だな」
「時間と場所は、おって連絡する」
相川はそれだけ言うと、一方的に電話を切った。携帯を見つめる藤田の顔は焦燥していた。
「ナオさん。お待たせ!」
背中から静代の声が掛かる。
(いかん!)
気持ちを切り替えて、振り向く藤田。だが、そのつくり笑顔に静代は反応した。
「…どうかしたの?なんだか恐い顔で」
「いや…何でもないんだ。ちょっと仕事の事でね」
とっさに出た嘘だった。
だが、静代はそれで納得したのか柔和な顔を見せて、
「どうする?止める」
「いや、行こう」
その言葉に安堵するように、静代は藤田のそばに寄りそった。
夕方、村瀬は自分のデスクで報告書をまとめていた。焦燥感を宿らせ、懸命にキーボードを叩く。
何かとてつもない裏がありそうな感触に、身体が熱くなっていく。
村瀬は、今日1日の出来事を頭の中で反芻していた。