Ethno nationalism〜契り〜-3
「錐状のモノで刺した跡だ」
声のした方を村瀬は見た。そこには科学捜査班の相川が立っていた。
「久しぶりです!相川さん」
村瀬が笑顔で挨拶する。相川は部署こそ違うが、同じ警察署の先輩だった。
「解剖しないと特定は出来ないが、おそらくそれが死因だろう」
「…すると殺しですか?」
「…おそらくな」
相川の言葉に村瀬はため息を吐いた。彼が思った通り、憂鬱な1日が始まろうとしていた。
ー2日後ー
村瀬の元へ鑑識及び科学捜査班や大学からの司法解剖の結果があがってきた。
鑑識からは、ベンチ周りにサイズの異なる靴跡があり、男が死後、複数の人に抱えられてベンチに座らされた。指紋については、遺体及び衣服から採取出来なかったと書いてある。
次は解剖結果だ。死斑以外、鮮紅班が無い事から凍死は考えられない。
死因は相川が言ったように、襟足から入った錐状のモノが、脳幹部を貫き、大脳深部まで到達して死に至らしめた模様とある。
最後に科学捜査班からのレポートを読んで村瀬は驚いた。
(…これは……?)
右腕に注射跡があり、その周辺部の細胞組織がアルカリ懐死している。また、血液分析から〇〇濃度が異様に高いとある。
(…結論として、チオ〇ンタールが使われた可能性大……)
村瀬は嫌な気分になった。単なる殺人事件と考えていたが、どうやらそうではないらしい。
衣服からは、身元につながる物は何ひとつ無かった。これでは調べようがない。
(何なんだ?この男は……)
村瀬が思案に暮れていた時、意外な線から男の身元が分かった。
それは、その日の昼過ぎ、ホテルイルパラッ〇オのマネージャーから連絡が入ったのだった。
村瀬は慌ててイルパラッ〇オへと向かった。
「こんにちは…」
夕方、藤田はいつもより遅い時刻に喫茶店を訪れた。
「いらっしゃ…い」
藤田を見た静代は一瞬、固まった。いつもの彼では無かったからだ。
「…どうしたんだ?お前」
父親の慎也も口をあんぐりと開けて驚きの声を挙げている。
グレイのスーツにダークブラウンのトレンチコート姿。髪もキレイにとかし上げ、ヒゲも剃ってある。