Ethno nationalism〜契り〜-2
課長は単刀直入に、
「移動中で悪いが遺体だ。すぐに大濠公園に行ってくれ」
「エッ?でも、久留米の件はどうするんです」
「そっちは新米を補充に回す。派出所の警官が第1発見者を確保しているから」
「了解…」
ぶっきらぼうに答えた村瀬は、無線を切ると、サイレンを鳴らしながらUターンさせた。
電話から15分後、村瀬のクルマは現場に着いた。
すでに周りにはバリケードがはりめぐらされ、鑑識班や搬送車が到着していた。
村瀬が現場に近寄りながら警察手帳を警官に見せて中に入る。
チラッと見ると、忙しなく動き回る鑑識班の隅で場違いに困ったような形相で、ひとりの男が立っていた。
「彼が第1発見者です。坂野遼一。32歳、近所の住人です」
警官からブリーフィングを受けた村瀬は、にこやかな笑顔と丁寧な挨拶で近づくと、
「中央署の村瀬です。この度はとんだ災難でしたな。ところで、発見した時の状況を教えていただけますか?」
遼一は苛立ちを覚えた。すでに警官に何度も細かいディテールに渡って聞かれ、うんざりしているところに、また同じ質問を投げられたからだ。
「その事なら何度も答えてますがね」
「もう1度お願いします。又聞きすると細かいニュアンスが違う場合も有りますから」
遼一はたじろいだ。にこやかな口調だが、身体から発せられるオーラに、有無を言わせぬ迫力があった。
「わ、分かりましたよ…」
ちょっと悪態をついた遼一は、村瀬に発見状況を事細かく伝える。
村瀬は2、3質問を加えながら手帳に書き込んでいく。
「私が見たのは以上です……」
「なるほど……」
「もう……いいですか?会社も有りますから…」
遼一は疲れた顔で村瀬に聞くと、
「エエ、結構ですよ。念のため連絡先をお教え願えますか?場合によっては再びお聞きするかもしれませんので」
遼一は警官に送られて帰っていった。村瀬は踵を返すと、遺体のそばによって覗き込む。
(きれいだ……まだ新しいな…)
衣服に乱れも無く、際立った外傷も無い。村瀬は科学捜査班や写真班の了解を得て、遺体を動かした。
(…なんだ?これ……)
後頭部の下、襟足辺りに直径2〜3ミリだろうか、小さな傷が見える。