Ethno nationalism〜契り〜-13
ー夜ー
相川は村瀬を連れて〈ペルージァ〉を訪れた。店内に入り、個室に通されたが藤田はまだだった。
「ちぇっ、相変わらず時間にルーズだな…何か飲むか?」
相川は席に座りながら村瀬に尋ねた。村瀬は〈じゃあビールを〉と答える。
相川はギャルソンにドライシェリーとビールを注文した。
その時、藤田が現れた。
「すまない。遅れたかな?」
相川は腕時計を見て、
「いや、オレ達が少し早かったんだな」
相川は立ち上がり、
「こっちは捜査一課の村瀬君」
相川がそう紹介すると村瀬は深々と頭を下げて、
「村瀬広海です。藤田さんのお噂は相川さんから聞いてます。同期だったとか」
180センチは有るだろうか。身長もそうだが、その頑丈そうな体格を窮屈そうなスーツで包み、にこやかな表情はクマを連想させる。
藤田は右手を差し出しながら、
「ろくな噂じゃないでしょう」
「とんでもない!戦場カメラマンの貴方を誇りに思ってるって」
意外な言葉に相川を見る藤田。
相川はいたずらが見つかった子供のようにそっぽを向いている。
相川はごまかすように、
「まあ、挨拶はそのくらいで良いだろう。こいつは佐伯栄治の担当だったんだ」
「だった……?」
相川の言葉に藤田が聞き返すと、彼は苦い顔で答えた。
「捜査が中止になったんだ」
「どういう事だ!」
「そこから先は村瀬とバトンタッチしよう」
村瀬は大きく頷くと藤田に語り始めた。
「その前に…佐伯さんの〈本当の職業〉は何なのですか?」
「エッ?」
「彼の遺留品から考えて、とてもただの貿易商とは考えられないのですよ」
藤田は考えた。佐伯が亡くなった今、彼の〈裏〉を隠す必要も無いと、
「佐伯は、中東地域での軍事情報。とりわけ、テロやクーデターの情報を集めて世界中の顧客に売っていた情報屋を生業としていました。
貿易商というのはカヴァーにすぎません」
「そうでしたか…」
村瀬は繋がりつつある点に、内心興奮していた。
それから、佐伯が殺害された状況と殺害に関与しているであろうマリア・コーエンの存在。そこでリードが途切れた事。本庁刑事局からの中止命令を受けた事を細かいディテールに及び藤田に語った。
藤田にすれば嬉しかった。本来、守秘義務があるハズなのに、目の前の村瀬はそれを破ってまで自分に明かしてくれている。
村瀬が続ける。