震える肢体U-1
整然と建ち並ぶ住宅街を抜けると、なだらかな丘陵地に出くわす。緑生い茂る脇には奥へと通じる道が有るが、入口は大人の背丈より遥かに高い冊が閉じられている。
そこにロールスのストレッチャーリムジンが入って来た。すると、冊は自動的に開き、ロールスはスピードを弛める事なく冊を過ぎていった。
ロールスが見えなくなると、冊はゆっくりと閉じた。
道の両端から生えたケヤキが枝を張りだし、トンネルを形づくっている。その中をロールスはゆっくりと登っていく。
しばらく行くと、突然、大きく開かれ、道の入口にあったモノよりも広く頑丈そうな冊を正面に、高い壁が両サイドに続いていた。
まさに丘陵の要塞といった様相だ。
ロールスが冊に近寄る。すると、今度は2人の屈強な男が現れた。
そのひとりがロールスに近づくと、運転席の窓が開かれた。
男は運転手の顔をチェックすると、もうひとりの男に合図を送る。すると、男は冊の横にあるボックス状のモノを押した。
途端に冊がスルスルと開かれる。
運転手は男達に軽く会釈をすると、ロールスを冊の中である屋敷内に進ませた。
数千坪は有ろうか。様々な季節の植物が配置された庭園は、美しさを醸し出している。
その植物に囲まれるように建つ邸宅は、昭和初期だろうか。アールデコ調の小じんまりとしたモノだった。
広いロータリーを縫ってロールスが玄関前に停まると、そこには、数人のメイドが出迎えていた。
運転手は素早く降りると、前を回って後部ドアーを開ける。
姿を表したのは、華奢な対躯に白を基調とした制服を身にまとった鹿島麗香だ。
メイド達が一斉に挨拶する。麗香は少し上気した頬で皆に笑顔を返す。
とても先ほどまで淫らな行為をしていたとは思わせぬ顔で。
「顔が赤いですわ。風邪でも?」
メイド長の田辺美保が麗香に尋ねる。
「…別に……」
麗香は先ほど見せた笑顔はなく、田辺を睨むように言い放つと、玄関から奥の自室へと消えた。
運転手の町田はそれを眺めて、嘲るように笑っていた。
麗香と町田。2人が〈秘密〉を持ったのは1年前だった。
「こんばんは!」
夜。町田は鹿島邸を訪れていた。
すぐに田辺が現れた。
「どちら様でしょう?」
「町田忠男と申します。〇〇町の香月さんの紹介で、参りました」
町田はスーツの内ポケットから紹介状を田辺に渡すと、〈どうぞこちらへ〉と中に通された。
田辺の後を歩きながら、町田は周りを見ながら驚いていた。
奥へと続く廊下には、美術館のように古い石仏が並べられている。
唐時代の物だが、そんな事に無知な町田にも価値ある物と分かる。