震える肢体U-5
「すまないね。実は娘の事なんだが、最近、何か変わったところはなかったかね?」
「どういう意味でしょう?」
田辺が聞いた。
庄蔵はやや困った表情で、
「このところ、成績が落ちてるんだ。何か知らないかね?」
町田はピンと来た。おそらく父親の部屋を覗き見したのが原因だろう。
だが、少しおかしくなった。日本有数のコングロマリットの総帥も、こと娘の事となれば、その辺のバカ親と同然だ。
「そういえば……」
「おお!なんだね……」
田辺の言葉に相入れる庄蔵。
「…最近、私に対する言葉遣いが……何と申しましょうか…キツくなったような……」
「…言葉遣いがキツくなった?」
「…はい」
町田は俯いたまま笑みを漏らす。父親の相手に対してそういう態度をとるのは自然な事だ。
(これは使えるな)
庄蔵と田辺が麗香の事を考えている横で、町田の頭の中は、別のあらぬ考えに浸っていた。
「それではご機嫌よう」
いつものように大勢のクラスメイト達が見送る中、麗香の乗ったロールスは学校を後にする。
麗香は窓の外をぼんやりと眺めている。町田はバックミラーで様子をうかがうと薄笑いを浮かべた瞬間、ハンドルを一気に右に切ってアクセルを踏み込んだ。
「キャッ!」
たまらず麗香は座席に倒れ込む。
「町田!道が違うじゃない!」
突然の事に、麗香はヒステリックに町田に言い放つ。
その時、運転手と後部座席を遮るガラスがゆっくりと降りた。
「いいえ…この道で良いんですよ。お嬢様……」
横目で麗香を見る町田の顔は、唇の端をつり上げ笑っていた。
「…どういう意味!説明なさい町田」
町田は、運転を続けながら質問に答える。
「あんたにセックスを教えてやりたくてな」
「なっ…!」
町田は〈ククッ〉と笑うと、
「父親とメイド長とのセックス現場を覗き見てから、毎晩自慰に耽ってりゃ成績も落ちますよねえ」
「ぐっ……」
ロールスは木々に囲まれた道をゆっくりと進み、古いレンガ造りの建物に入っていく。
暗い駐車場で停車すると、町田は後部ドアーを開けた。