震える肢体U-2
「こちらでお待ち下さい」
その部屋も凄かった。ドーム形の天井から壁に至るまで漆喰が塗られ、邸宅に合わせるようにイギリスのアンティーク家具だろう、巨大な会議用の楕円テーブルとイスが置かれている。
そして、壁にはレンブラントの絵画が数点掛けられている。
町田は自分の生活スタイルとの、あまりのギャップに感心しきりだった。
どのくらい経っただろう。突然ドアーが開くと同時に、男が入って来た。
町田は素早く立ち上がる。
「やあ、お待たせしてしまって」
40代後半だろうか。白髪混じりの頭をキレイにとかしあげ、細いフレームのメガネと相まって知的な印象を受ける。
ラクダ色のセーターにブラウンのスラックス。そのスマートな身体つきと物腰の柔らかさから、町田は執事かと思っていた。
「主人の鹿島庄蔵です」
瞬間、町田は身が固まった。国内有数のコングロマリット〈鹿島グループ〉の総帥が目の前にいるのだ。
「…町田忠男と申します!よろしくお願い致します」
町田は大袈裟に腰を曲げる。それを見た庄蔵は、にこやかに〈座って下さい〉と言うと自分も座った。
「紹介状、拝見しました。ところで、いつから来れますか?」
「エッ、いつから?ですか」
庄蔵の言葉に驚いた町田が聞き返すと、
「香月さんの紹介状だけで合格ですから。後は貴方がいつから住み込んで貰えるかだけです。
もちろん、この仕事は24時間、365日という体制で受けてもらいますが……」
その時、ドアーが開いた。庄蔵と町田の会話が途絶え、自然と目が向いた。
黒髪を腰まで伸ばし、ヒザ下までのワンピースパジャマの女の子が中を覗いていた。
「麗香、何をしてるんだ?」
庄蔵が咎めると、スッと中に入ってきて庄蔵に抱きついた。
「今、お客様なんだ……ここに座ってなさい」
そう言うと庄蔵は自分のヒザの上に女の子を乗せた。
町田と目が合う。
透けるような白い肌に上気した頬。大きな瞳は可愛らしさが、眉と固く結ばれた唇は意思の強さを表している。