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殺心者1
【ミステリー その他小説】

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殺心者1-1

私の家には他人がいる。

いつからなのか、正確にはわからない。
しかし、私が生まれる前から、彼は当然のように家族の一員となっていた。

目の前にいるその男の名は竹村慎司。

「ちょっと慎司!なんで私を無視するのよ」
「僕がいつそんなことをしましたか?」

怒る私に向かって彼は微笑んだ。いや、性格には口元だけを持ち上げたと言った方がいいだろうか。
皺や埃など一つも無い上品なスーツを着ており、端正な顔立ちをしている。控えめな印象は受けるが、デキる男であることは間違いない。26歳とまだ若い青年であるにも関わらず、いつも不思議な程落ち着いていて誰にでも優しく接する人物である。

しかし、彼に関して知っていることなど取るに足らない。

「前までは私の勉強もよく見てくれたじゃない…」

私は口を尖らせてみる。小さい頃、こうして甘えて見せると彼は仕方ないというように、頭を撫でてくれたのを思い出したのだ。
しかし、彼は少し笑っただけで階段を下りて行ってしまった。

まぁ、もう子供じゃないんだから、そんなの期待してないけど…

一抹の淋しさを抱きながらも、私は自室に戻る。
手が届かない程高い天井に長い廊下。高価な調度品の数々。毎日完璧に行われる清掃。
我ながら馬鹿みたいに豪華な家だと思うが、全てグループ会社を経営している父の財力の成せる業だ。何不自由なく暮らし、欲しい物は全て手に入る。そうやって育ってきた私は、自覚症状があるくらいに我儘なお嬢様に成長した。

私には、自分に手に入らないモノがあるなんて知る由もなかったのだから…

ヴーン…ヴーン…

机の上で携帯のバイブが鳴った。
エスカレーター制の有名私立高校に通っているが、とにかく規則が厳しく、携帯電話の持ち込みも許されていない。とはいえそんな校則を守る者は少なく、携帯電話はマナーモードにしておくのが常識だ。
「もしもし?」
「樹里亜〜!これからウチ来ない?みんな集まってるんだけど!」
私は横目で時計を確認すると、すでに夜11時を過ぎたところだった。
「あー…ごめん、無理。うちのパパ門限厳しくてさ。」
「え〜、樹里亜のパパが寝てからこっそり家抜け出せばいいじゃん?そんで起きる前までに帰る!バレないよ〜」
「無理無理!!絵里の家までかなり距離あるじゃん。誰かに車運転させたりしたらパパにバレるし!」
「じゃあ、あのイケメンに運転頼めばいいじゃん!!彼口堅いんでしょ?」
イケメン…と言われて思い浮かぶのは慎司しかいない。
「慎司?うーん…一応頼んでみるけど、ダメだったら諦めてよね。」
私は携帯を切った。
確かに夜遊びに興味はあるし、家を抜け出すなんて考えただけでワクワクする。
頼むだけ頼んでみようかな…。
私は部屋を出た。


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