殺心者1-4
*
彼女は呆然と眼を泳がせていた。
たいていの人間は、心の中に弱点となるものがある。
そしてそこを突けば、人間は簡単に壊れるということを僕は知っているのだから…。
見抜く眼と、壊す術を、僕は持っている。
「友達の所へ行くのでしたね。特別必要とされていないでしょうが…彼女達の“友達”という所有欲を満たしてあげたいというのなら、連れて行ってあげますよ。」
彼女は答えない。
反応を示さず、ただ宙を見ているだけだ。
僕は周囲を見渡す。
あの豪邸はかなり山奥を切り拓いたところにあり、街の方に出るには、車で下って行かなければ辿り着けない。
その通り道となる道路は、崖に沿った所が多い。ここもそうだ。
そのつもりでここに車を停めたのだから。
僕は佐伯樹里亜の手を引き、車外に出した。
「ほら、町の夜景が見えますか?」
彼女はぼんやりと虚ろな眼を持ち上げる。
「最後に綺麗な風景を見るのも良いものでしょう?」
僕は彼女の背中を軽く押した。
すると彼女はフラフラと、すがるように光の粒の方へと歩いてゆく。
そしてガードレールを跨ぎ―…
深い深い闇の中へと身を投げた。
残る娘はあと2人。
ふと見た足元に、この寒い中でも咲き誇る花を見つける。
僕はその花に心からの笑顔を投げかけ、踵を返した。
全ては、これから。