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殺心者1
【ミステリー その他小説】

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殺心者1-3

「おまえにどうこう言われる筋合いはないわ。私が聞いているのだから答えなさい!」

車が急停車し、私はガクンと前のめりになった。

「ちょっと!危ないわね、何考えて…」
「あなたが言う“私”とは誰のことですか?」

唐突に、慎司が尋ねる。彼の表情に全くの変化がない。
質問の意味がわからず、私は一瞬フリーズした。

「あなたなんてどこにいるんですか?」

私は怒りで顔が真っ赤になるのを感じる。

「私はここにいるでしょう!?何を馬鹿なことを言ってるの?!!」

彼はこちらを向かない。まるで私がいないモノであるかのように、見ない。

「人の金で自分を着飾り、なんの目標も持たずただのうのうと他人を見下しながら生きるのがあなた…?」

私は目を見開いた。
脳の思考が、『何も考えてはいけない』と警告しているように、正常に機能しない。 
何なの、これは。空気が一変してしまったかのように、鳥肌が立つ。

「本当に価値が無いのは、金を持たない庶民ではなく、自分に媚びへつらう者でもなく、自分自身だということをあなたがとっくに知っている。」

慎司、いや、これが本当に慎司なのか、もう私にはわからないけれど、その男は車を降りた。
そして回り込んで、私の側のドアを開ける。

それと同時に冷たい風が入ってきた。
寒さとは関係なしに足が震えている。
なぜこんなに怖いのかがわからない。
必死に彼の言葉を否定しようとしているのに、声も出てこない。

否定できないから?

恐る恐る、窺うように彼を見た。彼は蔑むような視線を私に落としている。
怖い。
怖い、怖い。

彼の綺麗な手が私の首元に伸びてきて、ビクッと震えた。
その指は撫でるように、首元にあるパールのネックレスに触れる。

「金銀パール、様々な宝石…例えどんな価値在る物をあなたが身に着けようとも、肝心のあなたが無価値ならば無意味なんですよ。」
「どうして、そんなこと言うの…酷い…」

逆らえない程に圧倒され、私はただ涙を流すことしかできない。
いつも強がっている私。
だけど、それが弱い故であることなどとうに知っているのでしょう?
なぜこんなに追い詰めるの?
なぜ汚れた心を自覚させようとするの?

その手はネックレスから離れ、次に私の頭を撫でた。
暖かい、ぬくもりが伝わってくる。
ずっと、私はこれが欲しかったの。撫でてくれる大きい手。
この恐怖を終わらせてくれるのかと、期待して、上目遣いで慎司を見た。

彼は笑顔だった。
いつもと同じ、口元を少し上げる笑い方。

「あなたは世界中の誰からも必要とはされていません。僕も、あなたなんて必要ありませんから。」

私の、すべての思考は止まった。


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