殺心者1-2
コンコン
慎司の部屋をノックする音が廊下に響き渡った。
なぜだろう、彼が現れるまでのこの時間いつもすごく緊張する。
カチャ
部屋が開く音。
そのすきまから部屋の中がちらっと見えたが、室内は真っ暗だった。
「あぁ、樹里亜さんでしたか。何か?」
私は慌てて視線を彼に向ける。
彼はすでにスーツ姿ではなく、ラフなジーンズにTシャツ姿だった。
普段あまり見ない格好に、一瞬ドキッとしてしまう。
今思えば、彼は家の中を歩くときも食事のときも、常にスーツ姿しか見かけない。
「部屋が暗いけど寝てたの?」
慎司は質問には答えず、私を真っ直ぐ見つめているだけだ。
彼が質問に答えないのはいつものことなので、気にせず要件だけを伝えることにした
「友達の家まで連れて行って。」
ぶっきらぼうに、命令するように私は言う。本来ならばこれは人に物を頼む態度ではないが、これが私たちの力関係の縮図。
父の下で働く慎司と、その父に溺愛されている娘達。その1人である私の態度に文句を言えるはずもないのだから。
「こんな夜遅くにですか?」
「なによ、パパに告げ口でもするつもり?」
私は腕を組み、背の高い彼をキッと見上げる。その様子に慎司はふっと口元を緩ませて言った。
「いいえ。あなたが望むなら行きましょう。」
そしてすぐに車の鍵を手にして部屋から出てきた。私は思い通りにことが進んだことに対し、ほくそ笑む。
なんだかんだで慎司は私の言うことを聞いてくれるのだと、それが嬉しかったのかもしれない。
外に出た。
冬の夜風は冷たい。けれど、今の私にはそれすらもワクワクさせる材料に過ぎなかった。
お嬢様というのは何不自由ないように見えて、意外と刺激が足りないものだ。そんな悩みも贅沢でしかないのだろうけれど…。
コートの襟元に付いているファーに顔を埋めながら、慎司の後についてゆく。
彼は姿勢がいい。
いつも真っ直ぐに立ち、綺麗な姿勢で歩いている。
そんな姿に、私は彼の強い意思のようなものを感じるのだ。
「慎司はなぜこの家にいるの?」
この質問は何十回目だろうか。彼はいつも笑うだけで答えたことはなかったが、今回も懲りずに聞いてみる。
「すぐにわかりますよ。」
「いつもそうやって流す!言いたくないことでもあるのかしら?」
「あるんですよ。」
彼は振り返ろうともしない。その態度がひどく気に入らなかった。
私に従っているようでいて、結局はえらく距離を置いている。そう感じたからだ。
「どうぞ。」
彼は車のドアを開けて、私に乗るよう促す。
釈然としないながらも、大人しく後部座席に乗り込んだ。
車が動き出す。
「あんた一体何者なのよ。どういう経緯で私の家にいる訳?」
「樹里亜さんの家ではなくて父親の家でしょう?」
私はミラー越しに慎司の顔を見た。いつも通りの無表情。
しかしいつもとは違う挑戦的な態度に私は苛立つ。