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忘れてしまった君の詩
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忘れてしまった君の詩・2〜プロローグ〜-3

まず目に入ったのは、猫が縄跳びをするようなイラストとタイトルだった。

 意外とかわいらしい丸みを帯びた文字で、それはこんな風に銘打たれていた。

『竜堂家マル秘レシピ〜初心者でもできるカレー作り編〜』

 私は唖然とし、それから訊ねてみた。

「なんです、これは?」

「なんでも、彼が小学生の頃にお母さんが作ってくれたレシピ集をマネて書いたそうよ。彼本人もそうだけど、なかなかお茶目なお母さんだったみたいね」

「そう、みたい……ですね」

 と、曖昧に頷く、私。

「書かれている手順は、私が今日授業したものとそうは変わらないわね。たまねぎを刻んで炒めて、あめ色になったら小麦粉を入れて……基本に忠実なレシピだわ」

「それなら、なにがどう違うんでしょうか?」

 私の質問に彼女は、それこそ、我が子の自慢でもするような母親のような顔で言った。

「ほら。こうして見てもらえばわかると思うけど、イラストの量がやたらと多いと思わない?」

 言われてみれば確かにそうだった。

 決して広いとはいえない紙面には、所狭しと、数々のイラストが描かれている。

これから推察するに、これのオリジナルは何枚にもわたる束だったに違いない。

 それにこうして良く読んでみると専門用語が極端に少なく、料理本には必須ともいえるあの曖昧な表現もまるでない。

 これなら料理の初心者や子供でも、飽きずに迷わずに調理をすることができそうである。

 なんとなく、このメモを片手に台所に立ちたがる子供の姿が目に浮かんで、私は微笑ましい気持ちになった。

 小さかった彼も、そうやって少しずつ、料理というものを身に着けていったのだろうか。

 そんな他愛にない空想にふける私に、彼女はしみじみとした口調で呟いた。

「これを見て、ああと思ったのよね。私みたいに何年もこういった仕事をしている人なら当然だと思えることも、彼らにしてみれば普段、見慣れないことばかりなのよねって。

 そんなこと、頭ではわかってたつもりだったんだけど、まだまだ認識不足だったんだなって、改めて考えさせられたわ」

「それじゃあ、その後のクラスは?」

「ええ、おかげさまでばっちり。みんな、おいしくできたって喜んでいたわ」

 それはなによりですと、話を切り上げ、私は再びキーボードへと向かった。だが、その手もすぐに止まる。ひとつ、気になることを思い出したのだ。

「でも、その分なら彼のクラスも大失敗というほどではなかったのでは? 少なくとも彼の班はおいしくできたのでしょうし」

 すると彼女は苦笑いを浮かべて、緩く首を振ってみせた。


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