忘れてしまった君の詩・2〜プロローグ〜-2
「いるところにはいるものなのね。彼みたいな子って」
あれは私が赴任したばかりの頃。
昼休みも惜しんでプリントの作成に取りかかっていた私に対して、隣のデスクで玄米茶を啜っていた家庭科教諭がそう賛嘆したことがある。
「はい?誰のことですか」
「竜堂君のことですよ。竜堂龍麻君。私もこの職に就いて30年近くなりますけど、彼みたいな生徒は初めてですね」
「……なにかあったんですか?」
作業する手を止めて訊ねた私に、彼女は嬉々として話してくれた。
それによると、彼女の本日の授業内容は2クラス続けての調理実習だったのだという。
一番手が彼のクラス、二番手が別の二年生のクラス。
なにを作ったのかといえば、カレーである。
「カレー、ですか」
「そう、カレーです。カレー、如月先生はお作りになったことはありますか?」
「ええ……インスタントであれば、何度か」
私の答えに、彼女は幾分がっかりとした表情をした。
「そうなんですよね。最近の若い子って、女の子でもあまりお料理をしないでしょ?
したとしても、そういったインスタント食品に頼ったものばかりで。一から教えようとするとなかなか……」
つまりは、大失敗に終わってしまったというわけである。
そんなこんなで授業も終わり、やや気落ちした気分で次の準備をしていると、例の彼がひょっこりと戻ってきたのだという。
「どうやら落ち込んでいる私を励ましに来てくれたみたいでね。ふふっ、生徒にコンディションを見抜かれているようでは、私もまだまだよね」
「はあ」と、答えに窮する私に、しかし、彼女は構うことなく、
「それでしばらく世間話なんかをしていたんだけど、彼が不意に『もし良ければ』って一枚のメモをくれたの」
「メモ……ですか?」
「ええ、これなんだけど」
そう言って彼女がポケットから大切そうに取り出したのは、几帳面に四つ折にされた一枚の紙片だった。
拝借して開いてみる。