純白の訪問者-6
敦は表情を緩ませると沙耶の頭に手を乗せて、
「いい友達持ったな…」
そして、2人を地下駐車場から中に入れると、仮眠室に案内した。
「いいか、オレはしばらく仕事で戻らない。その間、ここで待ってろ」
そう言って敦が出て行こうとすると沙耶が、
「あのさ…そろそろお腹空いたんだけど……」
「後で持ってきてやる。ここから出るなよ」
ドアーが閉まる。
沙耶は見回しながら、
「1年ぶりだなぁ、ここも」
何の変哲もない6畳の和室。
「チカちゃん、こっち見てごらん」
言われるままに窓に近寄る知佳子。
「うわぁ!キレイ…」
それは地上100メートルから見下ろす街の景色だった。
華やかなイルミネーションが散りばめられ、その間を縫うようにクルマのヘッドライトだろう。光の河が流れている。
まさに地上に咲いた花火のようだ。
2人はそれを眺めているだけで幸せな気持ちになった。
「高橋、状況を説明しろ」
敦は電算室に入るなり高橋に言った。声のトーンを落として。それは彼が本当に怒った時にみせる仕草だった。
高橋は困ったように、
「ホストコンピューターのプログラミング修正をしていたら突然システムダウンしてしまって……」
「分かった…」
敦はコートを脱ぐと、ホストコンピューターへのアクセスを始めた。彼が命じた修正部分のプログラミングを丹念に調べ、間違った箇所を直してやるのだ。
電算室にキーボードを叩く音が響く。
「…ああ…それとな」
敦は画面から目を離す事なく高橋に言った。
「なんでしょう?」
「これでサンドイッチとジュースを2人前買って来てくれ」
「はあ?」
敦の突拍子もない依頼に困惑する高橋。だが、敦は念を押すように、
「急げよ」
その瞬間、高橋はバネ仕掛けの人形のように〈ハイ!〉と言って電算室を後にした。