純白の訪問者-5
何とか時刻内に間に合った。
白壁に丸い形の窓。アールヌーボー調の室内。奥の壁にはラファエロの模写が間を開けて並んでいる。
ギャルソンの案内で席へと案内されると、そこには敦が待っていた。
「エッ!いつ来たんです?」
すっとんきょうな声を挙げるめぐみ。対して敦は、はにかむように微笑むと、
「高橋に任せてとっとと逃げてきたんだ。今日はお前との約束が優先だ」
めぐみはにっこり微笑むと席についた。
デキャンタが運ばれてくる。
「シャンベルタンの2000年だ。オレの好きな銘柄なんだ」
グラスに注がれる。
「乾杯しよう。お前とオレの出会いに…」
「…はい…」
グラスが重なる。
めぐみを口に運ばれる。
(…うわっ……)
芳醇な香りと酸味、渋味が口内に広がる。ワインをよく知らないめぐみにも、濃厚さが分かる。
その時だ。敦の携帯が震え出す。
「まったく…無粋なヤツが多くて困るな」
そう言うと席を立って奥へと消えた。
しばらくして戻ってきた敦は、不満を露にしてめぐみに言った。
「高橋がトラブルを起こした。今から社に戻らにゃならん」
そう言って財布から数枚の札を取り出すと、
「すまないが料理をキャンセルしてくれ。それからオレの部屋のカギを渡しとくから…ここが済んだら行っててくれ。そこでやり直しだ」
それだけ言うと店を後にする敦。とり残されためぐみはギャルソンを呼んだ。
タクシーを降り、会社へと駆け込む敦。外灯に姿が映し出される。
「アツシーーッ!!」
そこにいたのは沙耶と知佳子だった。雪が舞い散る中、2人は1時間以上も石段のところで待っていたのだ。
「何やってんだ!こんな雪降る中。風邪ひいちまうぞ!」
沙耶は目を潤ませながら、
「…だって…クリスマスイブだから…」
言葉に詰まる沙耶を知佳子がフォローする。
「私達、上条さんにお礼をしたくて…お世話になったのに何もしていないから……」
敦は知佳子を見て沙耶を見た。かたやキチンと主張し、かたや感情が高まると言葉に詰まる。
いまや知佳子の方がお姉さんのようだ。