純白の訪問者-10
「…ちょっと…聞いてる?めぐみさん」
「…ハイ……」
「頑張ってね。最後は気持ちだから」
由貴からの電話が切れた。受話器をそっと戻す。
その時だ。
ドアー・フォンが鳴った。めぐみは慌てて涙を拭うと、小走りで玄関へと向かった。
「は〜い!」
「オレだ。開けてくれ」
敦の声に反応して玄関ドアーを開けた。
「おかえりなさい!」
明るく出迎えるめぐみ。敦の顔を見て、また目が潤んでくる。
だが、敦の方は何故か苦い顔をしていた。
(…?)
と、後からひょっこり2つの顔が飛び出す。沙耶と知佳子だった。
「沙耶ちゃん!チカちゃん!」
驚きの声を挙げるめぐみに対して2人は笑っている。とりわけ沙耶はニヤニヤと、
「いやぁ〜、お姉さんも結構やるね!」
その時、敦の右手が沙耶の頭を軽く叩いた。
「子供が変な口利くな」
「イッタイな。バカアツシ…」
「いいからさっさと上がれ」
沙耶と知佳子が先にリビングへと入っていく。
部屋に明かりがともり、暖かい空気が流れてくる。いつも真っ暗な中に帰っていくのに慣れているせいか、自分の部屋でないような気持ちになる。
だが、心地よい違和感だと思った。
「へぇ〜、これが敦の部屋かぁ」
リビングで辺りを見回す沙耶と知佳子。テレビとオーディオ。それに大きめの本棚を壁に配し、真ん中にローボードテーブルと至ってシンプルだが、
「なんだ?これ…」
それは壁から壁へロープを張り、カッターシャツが20枚掛かっていたのだ。
遅れて入った敦も言葉を失った。
「…あ、あの、それね。待つのも暇だったから……」
申し訳なさそうにめぐみが答えると、知佳子が笑みを浮かべて、
「めぐみさん。良いお嫁さんになれますよ」
「…そんな…私なんて…」
「ヨシッ!イブのやり直しをやるか。と、言ってもシャンパンしかないが」
敦が照れをごまかすように言った。