『ぼくをかいませんか side-T』-2
ぽつ、と一歩を踏み出した。
その場に根が生えたように動かない足を、無理矢理前へ出した。
慎重に、引きずる様に歩き出す。
乾いた夜の空気に響く、ヒールの音。
長い髪の間を12月の冷たい風が通り抜ける。
泣き崩れることが出来ないのは、私が感情だけで行動する年ではなくなったから。
世間の目が気になるから。
そう、28歳独身女のプライド。
「今年のクリスマス…一人になっちゃった…」
ヒールの先を見ながら呟いた、時――
「僕をかいませんか」
声がした。
顔を上げると、そこには少年の姿。
この季節には薄すぎる白黒のボーダーのセーターに、破れたジーンズ。ツンツンに立てた漆黒の髪。耳にはたくさんのピアス。年は…15、16歳?
「おねえさん、僕をかいませんか」
まじまじと観察する私に少年は再び言う。
透けるように白い肌。赤い唇。どう見ても、美少年。
でも、その瞳は――
『寒い。お腹すいた。』
そう訴えている。
大きくて、真っ黒な瞳は子犬を思い出させる。
「帰るところがないの?」
私の問いに、コクリとうなづく少年。
きっとこの子も私と同じなんだ。
淋しくて、一人で居たくない。
心が寒くて、誰か側に居て欲しい。
とても、弱い…。
目の前で淋しそうに微笑む少年。
「いいよ、うちで飼ってあげる」
ぽつり、
私が言うと、少年は目を大きく見開いた。
「ホント!?」
少年の瞳が輝いた。
私はゆっくり頷く。上手くは笑えないけれど、少し、微笑んで。