ベルガルド〜美しき恐怖〜-5
「二人とも…おもしろいね。僕、少し遊びたくなっちゃった。」
また一歩踏み出す。
「メア姉ちゃん早く下がって!!」
私は訳も分からず、震える足をひきずりながら後ろに下がった。
本能が警告しているの?
この人、何かがおかしい。
急に、少年に思いっきり突き飛ばされ、私は5m程後ろに転がった。
腕を擦り剥いてしまった。
その時だった―
その女性が魔力を解放した。
それも、強大な。魔族の王であるベルガルドを凌ぐほどの魔力だった。
「…信じられない…この魔力…」
(一体、何者、なの?)
私ははっと少年の方を見た。
もし、あの時突き飛ばされていなければ、魔力に当てられて私は死んでいたかもしれない。
だけどあの子はどうなったの?
しかし、
その少年は、揺るがずに立っていた。
「まさかあなたも…?」
「メア姉ちゃんを怖がらせるつもりは無かったのに。」
その子はポケットからナイフを取り出し、自分の腕を切りつけた。
その傷口から血が溢れ出す。
「賢明だね。僕もそれが一番だと思うよ。」
女性は見透かすかのように、少年に語りかけた。
その言葉に構わず、少年は自分の傷つけた腕を掴む。
魔力を込めているようで、強い光を放ちながら…
「メア姉ちゃんに手出しはさせない!!!」
そう少年が言うのと同時に、真っ赤な結界が美しい女性を包んだ。
女性は少しも動かない。いや、動けないことを知っているから動かないのかもしれない。
私には、その結界が少年の血で出来ているように見えて、不安になる。
「メア姉ちゃん、早くこっちに!!」
私は言われるがままに、教会の外への扉へ向かう。
その時、背後で、歌うような彼女の声を聞いた。
「また、いつか。」
私は振り返らずに、転がるように外へ出た。
その後は、一体どういう道を通ってきたのかわからない。
ただ走って走って。少年の導くままに私は走った。
もう何も追っては来ないのに、ただ怖くて…
はぁっ、はぁ。
息を切らせて、なんとか動悸を抑えようと胸の辺りに手を添える。
「ごめんね、まだ風邪を引いた方が良かったかもしれないね。僕のせいで怖い目に…」
少年はしゅん、とうな垂れてしまっていた。全く息が乱れていない。
それに、腕の傷はすでに塞がっているようだ。
魔族は回復力もヒトとは違うのだろうか。
「あなたのせいじゃないわ。あなたがいなかったら、私、きっと死んじゃってたと思うし…」
あのときの恐怖に改めて身震いする。