Ethno nationalism〜激動〜-1
「こんにちは」
昼を大分過ぎた頃、藤田はいつものように顔を出す。それをマスターとウェイトレスの寺内親子がいつものように暖かく出迎える。
いつもの喫茶店。
藤田が帰国してから1週間が過ぎようとしていた。
常に死と隣合わせという緊縛した状況下から、急に平穏な生活に戻って、最初の数日はどうにも馴染めなかった。
恒久的に見えるこの平和。
それが砂上の楼閣に思えて仕方なかった。
戦後、アメリカの保護のにより、日本は奇跡の復興を成し遂げた。
必要な軍備を持たず、共産圏からの脅威に対して、自らの手を汚す事無く守られながら経済を発展させていく。
自らが犯した、アジアでの蛮行を悔いる事なく。そんな日本に、今でも〈恨〉の意思を抱くアジア諸国。
やがて経済は安定し、アメリカに次ぐエネルギー消費国となった。そして冷戦終結と前後して、紛争地域は中東へと拡大していった。
消費エネルギーの7割を中東の石油に頼る日本。
だが、相変わらず口先だけの〈平和〉を唱え続け、自らの手を汚さず金で解決しようとする。
外から見る日本の、なんといびつな事か……
「なに、むずかしい顔してんの?」
眉をひそませて俯く藤田を、静代が心配そうに覗き込む。
(いかんな……ナーバスになっている)
「ちょっと考え事をしてたんだ……」
「仕事の事ね」
静代は、そう言うと少し哀し気な声で続ける。
「忘れるなんて出来ないでしょうけど、ここに居る間だけでも寛いで……」
「そうだね……」
そう言って藤田は薄く笑うと、
「ブレンドを。それとホットサンドも」
カウンター奥に居た慎也はいつものように〈ハイよ〉と言うと、静代と2人、準備しだした。
その光景を、藤田はうらやまし気に眺める。
温かい日射しが窓から入ってくる午後のひととき。時間はゆっくりと過ぎていた。