Ethno nationalism〜激動〜-9
「こんにちは」
「あら、3日ぶりじゃない!」
昼過ぎ。ガランとした喫茶店に現れた藤田を静代が出迎える。
いつものとまり木に腰掛けると、脱いだジャケットをとなりに置いた。
「それに小ザッパリして直さん
じゃないみたい」
「そうかな……」
少しはにかむ藤田。
いつもはボサボサの頭にヒゲ面で、あまり容姿に頓着するほうでは無いのが、髪を短く刈込み、ヒゲもキレイに剃っている。
それもあってか、いつものジャケット姿だが、すっきり見える。
「やっと仕事が終わったんで、床屋に行ったんだ」
静代の父親慎也が奥から〈どれどれ〉と言って現れた。
慎也は藤田を一瞥すると、
「ナオ!良いじゃないか。いつもそうしてろよ。その方が静代も喜ぶからな」
「お父さん!」
慎也のひと言に、静代は顔を赤らめると声を荒げる。
慎也は奥へと逃げながら、
「お前だって言ってたじゃないか!〈直さん、小ギレイにすれば良い男なのに〉って」
慎也はそのまま逃げてしまった。
「もうっ!お父さーーん!」
真っ赤な顔で叫ぶ静代。
それを見ていた藤田も照れたのか、少し赤い。
どんな血生ぐさい場面に出食わしても、冷静な行動をとれる藤田だが、こういった場面は苦手なようだ。
「ご、ごめんなさいね……お父さん、変な事言っちゃって」
静代は俯き、藤田の目を見れないまま謝った。まだ頬は赤い。
そんな言葉に、藤田は笑顔を浮かべて、
「君達親子の関係は、ボクにとっては羨ましいほどさ。ボクには両親もいないし……」
「エッ?でも、ご実家は横浜だって……」
静代の戸惑いながらの言葉に、藤田は首を横に振りながら、
「ああ、今は兄貴夫婦が守ってるよ」
「じゃあ、ご家庭は?」
「兄貴だけさ。それに、いつ死ぬかも分からない仕事だから……」
「…そう……」
藤田を見つめる静代の顔は、慈愛に満ちた母のようなそれだった。