Ethno nationalism〜激動〜-8
「しかし、貴方のようなお若い方が、世界を飛び廻って商売をしておられる。実に羨ましいですな」
田畑はそう言って感嘆の声を挙げる。佐伯は作り笑いを浮かべながら、
「たまたま運が良かったんですよ。それに従業員5人の小さな会社ですから」
「いやぁ、それでも大したモンだ。私ももう少し若ければ……」
「田畑さん。その話は後ほどに……」
佐伯の言葉に田畑は〈そうでしたな〉と言うと、軽く咳払いをして、
「では、お願いします」
佐伯は言葉を選びながら田畑に言った。
「御社が安永電機に納入しておられるロボット用マニピュレーターの心臓部。小型精密モーターを1,200個、購入したいのです」
「1,200個ォ!」
田畑の驚いた声が応接室に響く中、佐伯は大きく頷いた。
「バイヤーはインドの精密機械メーカー。注文書もこの通りに」
佐伯はブリーフケースから注文書を田畑に渡した。
「なにぶん、外国のメーカーとの取引は初めてなもので……」
「こちらの余剰生産能力はどの程度です?」
佐伯の問いかけに、田畑はアゴを撫でながら、
「そうですな……月200個位ですかな」
「ならば最初の積み出しを3ヶ月後に200個として、その後、月200個の納品でいかがです?
初期トラブルの問題も有るでしょうし……」
田畑は驚きの目で佐伯を見た。
「よくご存知ですな。さすがに感心しましたわ」
佐伯はそれには答えず、
「後は支払いですが、最初の納品後に半分を。600個納品後にもう半分でいかがです?
当然、海外メーカーですから、その方が御社も安心かと思いますが」
「結構です」
田畑の言葉に佐伯は頷くと、
「では、いかがです?今の私の言葉をこちらの仮契約書に記載しています。
3日間は日本に滞在予定ですが、必要なら伸ばしますから…」
そう言って佐伯は立ち上がると、右手を差し出した。
「出来ましたら嬉しい結果を持って日本を離れたいので、よろしくお願いします田畑さん」
田畑も佐伯の手を握りながら、
「期待に添うよう努力します」
にこやかに答えると、
「ところで佐伯さん。今夜のご予定は?よろしければ一席設けたいのですが」
佐伯は苦笑いを浮かべると、
「生憎、まだ他にも回らねばならないので」
そう言って前田技研を後にする。
この間、わずか1時間。商社で培った佐伯の素晴らしいセールスピッチだ。