Ethno nationalism〜激動〜-7
ー香港ー
ペニンシュラホテル。
朝のまどろみの中、女は携帯からの呼び出し音で目覚めた。
それは、一般の周波数ではなくNSAが持つ衛星回線だけに反応するアラーム音だった。
女は携帯を開くと映し出された文字を読んだ。
〈A3〉
たった一文。女は確認してから携帯を閉じて、フロントへ連絡する。
相手はすぐに出て、明るい口調で答えた。
「フロントです」
対して女は抑揚の無い口調で語った。
「すぐに日本往きのチケットを取って欲しいのよ」
「分かりました。直ちに手配して折り返し連絡致します」
「それと、ここの清算もね……」
女はそれだけ言うと、電話を切ってバスルームへと向かった。
透けるように白い肌、見事な曲線美、ブルネットの艶やかな髪に濡れたブルーの瞳が美しい。
だが、その目は氷のようだ。
A3……直ちに支局へ赴き、指示を仰げ
女は身支度を整える。プラチナブロンドのかつらにシャネルのスーツ。
ベットサイドの電話が鳴り出す。
女は優雅な身のこなしで受話器を取る。フロントからだ。
「11時半のチャイナ・エアラインが手配出来ますが…」
「じゃあそれで。すぐに降りて行くわ」
女は電話を切ると、5分後にはポーターを従えてフロントに現れた。
ホテルの支払いを済ませながら、女はマネージャーに、
「素敵な休日だったわ」
その美貌と笑顔に、マネージャーは仕事を忘れたように、
「…こちらこそ……また」
女はホテルのロータリーに横づけされた、送迎のメルセデス・マイバッハに乗り込むと空港へと向かった。
それをポーターやドアマン達は羨望の眼差しで見送った。
ー北九州ー
小さな町工場。佐伯は事務所の奥にある4畳半くらいの応接室に通された。
「前田技研の田畑です」
交換した名刺には代表取締役社長とある。
小太りの身体をネズミ色のくたびれたスーツに身を包み、脂ぎった顔に銀縁メガネ。薄くなった頭を横分けにとかし上げる。
典型的な日本人のステレオタイプだ。