Ethno nationalism〜激動〜-2
ー東京ー
〈ひかりN700系〉は、モーター音と共に、その長い巨体をゆっくりと前へ推し進める。
巨体は徐々に速度を増してゆき、長い々専用ホームを離れる頃には、かなりの速さで走り去って行った。
その車中。佐伯栄治はぼんやりと流れる景色を眺めていた。
日本を離れて7年。半年毎に帰っては来るが、その風景の変化、とりわけ建物の変わりようには凄まじいエネルギーを感じさせられる。
それを見る度、〈商社に勤めていた自分が、こんな風になるとは〉と、思いを馳た。
佐伯は大学卒業後、日本有数の商社である佐藤物産に入社した。
1年間は他の新人同様に、ベテラン社員の補佐に就くと、商社マンとしてのイロハを叩き込まれた。
そんな中、彼は仕事の呑み込みでは他の新人を圧倒していた。とりわけ、契約などのネゴシエーションなどでは群を抜くほどだった。
入社2年目。
佐伯は大抜擢でベイルート支局への転勤を言い渡される。
佐藤物産での海外転勤はイコール出世コースだった。
しかし、現実を見た佐伯は驚いた。
支局とは名ばかりで、本社からの指示により動くだけで、自ら売り買いを行わない。
そればかりか支局の社員達は、朝9時から夕方5時の定時を終えると、さっさと帰ってしまう。
飲みに行くのもたまに社員同士だし、現地採用者と親交を深めたりもしない。
良くも悪くも日本的なのだ。
最初は佐伯もそんな中に居たが、半年を過ぎた頃、ガマン出来なくなった彼は週末毎に繁華街へと出向くようになった。
彼の考えは〈郷に入れば郷に従え〉だった。
ベイルートという国でビジネスチャンスを得るには、世界中のビジネスマンが集まる繁華街で親交を深めるのが手っ取り早い。
佐伯は現地社員にビジネスマンが集まるバーへ案内してもらい、様々な国のビジネスマンと知り合っていった。
そんなある日。
佐伯がひとり、行きつけのレストランで夕食を摂っていると、
「座っても良いかな?」
男が話しかけてきた。
佐伯が見上げる。
シルバーグレイの髪を短くカットし、彫りの深い目とカギっ鼻が特徴的だ。
濃紺のジャケットを着た姿は、うさん臭い弁護士のように映る。
佐伯は男に席に着くよう促した。
「ジェームス・ファーガソンだ」
男はそう名乗ると佐伯に右手を差し出した。佐伯はその手を握りながら、
「よろしく。エイジ……」
佐伯の言葉を、ファーガソンは遮った。
「サトウブッサンのサエキだろう。知ってるよ」
そう言ってジャケットから名刺を取り出し佐伯に渡した。