Ethno nationalism〜激動〜-15
夜もかなり更けた頃、佐伯は同じカクテルを注文した。
平たいグラスに注がれた薄いグリーンの液体。
「ギムレットだ」
佐伯はグラスを重ねながらマリアに囁く。
マリアは魅力的な微笑みを湛えながら佐伯を見つめている。
「チャンドラーの〈長い別れ〉ね…」
佐伯は頷きながら、
「〈ギムレットには早すぎる〉ってね……まさにそんな心境だ。君を連れ去りたい」
「連れ去ってみれば……」
マリアのブルーの瞳が佐伯を見据えた。紅い唇がわずかに開き、妖しさを醸し出している。
佐伯はその瞬間、血が逆流するような凄まじい感覚に襲われた。
佐伯は勘定に足るだけの札をカウンターに置くと、マリアをすくうように抱きかかえて彼女の部屋にむかった。
マリアの身体をベッドに降ろす佐伯。マリアは身を起こすと、彼のベルトをむしるように外していく。
「来て!エイジ」
佐伯はネクタイを外してシャツを弛めると、マリアの身体に割って重なった。
お互いの唇が重なり合った。
次の瞬間、佐伯の身体から力が抜けた。マリアはズルリと身を起こすと、彼の顔を覗き込む。
「……エイジ…?」
佐伯は目を閉じ、口を少し開けて眠っているようだった。
マリアはベッドから起き出ていく。その目は先ほどまでの男を誘うモノでは無く、冷たい氷のように表情が見えない。
彼女はフロントに連絡を入れた。
「連れが酔っ払ってしまって……迎えが来るので通して欲しいの」
「分かりました」
マリアの連絡から5分後、ハイヤーの制服を着た屈強そうな日本人2人がホテルに現れる。
彼らはフロントにマリアの名を告げると、彼女の泊まるスイートルームにホテルマンの案内でむかった。
マリアの部屋がノックされる。
「どなた?」
「ホテルマンです。先ほど連絡いただいた迎えがみえましたので」
マリアがドアーを開けると、ホテルマンを従えて迎えが入って来た。
2人は手慣れた動作で佐伯をひとりの背中に抱えると、ゆっくりと部屋を出て行こうとする。
「大切にね」
マリアは彼らにそう言うと、部屋のドアーを閉めたのだった。